ライフ・オブ・パイ
今年のオスカーは何となく此の作品が取りそうな予感がしたので
映画館が混まないうちにと観に行った。
果たして、ハリウッドで成功した中国人監督No.1のアン・リーの
新作の出来は?
素晴らしい!私の今年観た映画のベスト・テンには必ず入れたい。
有名な原作の映画化らしいが
まずストーリィの面白さ以上に良く出来たシナリオ構成。
動物と人間が1つの小船で漂流する話は
「少年の黒い馬:ブラック・スタリオン」という名作があるが
アチラは馬と少年の友情物語
此の映画では人喰い虎!だから仲良くなれる訳が無い。
主人公は虎には”餌”としか見えないのだ。
油断すると喰われてしまう緊張感は映画館という
閉鎖的な空間で観ていると
一緒に檻の中に入れられた様な恐しい錯覚を起こす。
<ネタバレ注意!>
話は前後するが
インドで動物園を経営する両親が
カナダに移住するので、家族と動物を連れて船旅をする途中
嵐に遭遇、主人公だけが運良く小さな救命艇に乗せられ海に投げ出される。
可哀想に両親、兄と家族は船と一緒に沈没してしまう。
嵐が止んで、その救命艇に偶然,居合わせたのが
シマウマ、ハイエナ、オランウータンにインドのベンガル虎
主人公は知恵を働かせ、イカダを作り,小舟から離れるが
他の動物は見事に虎に喰われ、サブタイトルの
”トラと漂流した227日”と成るワケだ。
なにせ227日だから、映画としては短調に成るはずだが
今ハリウッドで最も才能を買われているアン・リーは「ハルク」で
覚えたC,Gを自由に使いこなし、まず虎そのものを精確に作り
(髭の微妙な動き、獰猛な眼の鋭さ等・・・)
あげくは3Dで観客の鼻先まで飛びかかる虎には流石に
私も客席から後ろへ、ギャッと仰け反ってしまった。
その虎のリアルな表情は、主人公と言葉は無くとも
対話するまで行くのが、不自然に思えなくなって来る。
そしてアン・リーのサービス精神は映画としてのスペクタクルを
満天の星,夜光性のクラゲの輝きと、
夜の海を信じられ無い美しさで見せてくれるのだ。
此れは大スクリーンならでは迫力、何度も繰り返し観てみたい。
どうやら母国・台湾の古い飛行場跡に映画史上最大と云われる
巨大プール・セットを組み
暴風雨から大海原まで人工的に再現したらしい。
とにかく”ほら吹き男爵の冒険”とも思える奇想天外な物語が
主人公の宗教観や生命観を丁寧に描く事により
見事に説得力が有るのが此の映画の魅力だろう。
主人公演じたインド人の少年俳優も感情豊かで素晴らしいが
何処が本物で,何処がCGか全く判らないリアルな
ベンガル虎には演技賞をあげたい。
監督のアン・リーは初期の作品「推手」から
「ブローバック・マウンテン」と私はずっと追っている人なので
オスカーの監督賞を取った事が、昨日は自分の事の様に嬉しかった。