此処に取り上げたのは昭和を代表する漫才トリオだ。

コメディアンが巧い脇役、いや「寅さん」シリーズの

渥美清の様に主役になってしまう場合もあって

TVだけでなく銀幕のスターでもあったので

まだ星になっていない人も含めて紹介したい。

脱線トリオ（1956〜1961）

左から南利明、由利徹、八波むと志

売れない喜劇役者だった３人が組み

当時、日テレの「お昼の演芸」のコントで人気を博した。

由利の東北弁のアクの強い芸は爆笑を呼び

南の”ハヤシもアルでよ〜”のCMも流行った。

しかし八波が舞台俳優として東宝の「雲の上団五郎一座」で

三木のり平とのコンビの「切られの与三」が評判を呼び

日本初演のミュージカル「マイ・フェア・レディ」で

江利チエミのイライザの父親ドゥリトル役に抜擢されたりして

３人のバランスが、どうにも悪く成り解散。

八波も南も短命だったが、最後まで生き残った由利は

”婆さんの針仕事”や”オシャマンベ”の下ネタで

TVらしくない舞台芸を晩年見せ、ファンを喜ばせた。

スリー・ポケッツ（1959〜1960）

左から渥美清、関敬六、谷幹一

浅草のストリップ小屋フランス座のコントをやっていた３人が

”脱線トリオ”の人気にあやかってトリオを組んだものの

”笑い”の方向性の違いに半年で解散、その後

抜けた渥美の代わりに、海野かつおが参加

しかし渥美の抜けた穴は大きく自然解散。

渥美は八波むと志と同じ様に

東宝の舞台や映画の「南の島に雪が降る」や

　NHKのバラエティ番組「夢であいましょう」でも

そのユニークな芸が高く評価され人気沸騰。

その頃、渥美が出演した此のドラマの感想を

此の”キネマ通り”に以前載せたが、もう一度、添付したい。

放蕩一代息子＆放蕩かっぽれ節

山田洋次vs渥美清・東芝日曜劇場傑作選４作品というのを

レンタル・ビデオ屋で見付け，早速観てみた。

TBSのプロデューサー石井ふく子に呼ばれ、

松竹では、まだ新人監督だった山田洋次が書き下ろした脚本に

当時TVで人気の出始めた渥美清が主演している。

その４作中２本が山田が得意とする”落語ネタ”で

「らくだ」「と「放蕩息子」を脚色したもの。

渥美が後の「フーテンの寅」とは又違う軽さで

徳三郎という、どうしようもない大店の若旦那を演じている。

それにしても本物の落語家（小さん）を前に

粋な江戸言葉を滑舌良く使う渥美の芸には驚かさせられる。

もし彼が俳優でなく落語家に成っていたなら

恐らく、しん朝、談志と肩を並べて居たろう。

山田洋次が狙ったのは古典落語をベースに

江戸庶民の平穏な暮らしの中に

ヤクザや放蕩息子という”はみだし者”を放り込む事で起こる

様々なトラブルに、泣き笑い、そして人の情だ。

それは後年シリーズ化された映画「男はつらいよ」に

受け継がれたのは云うまでもないが

とにかく、此の２作品に窺えるのは渥美清と云う役者の

途轍もないスケールと緻密な表現力そして無限とも思える可能性。

もちろん「男はつらいよ」は素晴らしいシリーズだったが

つくづく”フーテンの寅”で渥美清を終わらせてしまった

日本の映画界や演劇界そして、それ以上を求めなかった

私も含め観客の器量の狭さを感じた。

共演者に石井ふく子ファミリーや山田洋次映画の面々が出ているが

此の頃の渥美のパワー＆スピードには、あの若山富三郎すら

着いて行けず僅かに芸達者な西村晃や杉山とく子

そして後に”さくら”になる倍賞千恵子だけが

彼の演技に反応して光っていた。

それに、全く反応が無い（死人だから当然）”らくだの馬”役の犬塚弘は

元ベーシストらしい手足の長い容姿を生かし

瞳をピクリともさせず、かっぽれを踊り切り

歴代の此の役の俳優（中村是好、小沢昭一など）の中で、

私の知る限りベストと云える。

「寅さん」シリーズ末期に関敬六が同業のヤシ役などで

出演していると同じ釜の飯を食った渥美は嬉しそうだった。

 てんぷくトリオ（1961〜1973）

左から、伊東四朗、戸塚睦夫、三波伸介

彼等は新宿にも在ったストリップ劇場フランス座の出身。
彼等のコントを書いていたのが、後に劇作家となる井上ひろし。
三波伸介の「びっくりしたな〜もう！」のセリフは受けたが
戸塚のボケや伊東の絶妙なツッコミで生きていたと思える。
戸塚は肝硬変で亡くなり
NHKの”満点パパ”で得意な絵を披露していた三波も
大動脈瘤破裂で急死、トリオは解散となった。
今でも元気な伊東は小松政夫と組んで
”電線マン音頭”などのポップな芸で生き残り
いつの間にか”化けて”、名バイプレイヤーと成り
先の「平清盛」での”白河法皇”やドクターXの”毒島隆之介”は
映画や新劇出身の演技派俳優どころか
主役を食う”怪優”の存在になって居る。
今や上記の昭和の漫才トリオの出世頭と云えよう。