2014年5月5日月曜日

モラン神父
ジャン=ピエール・メルヴィルの未公開映画がDVD化された。
「サムライ」「影の軍隊」「いぬ」と
フィルム・ノワールの御本尊様の作品は
見逃して成るものかと早速、拝見。
あれっ、でも此れは何時ものメルヴィル映画とは違うぞ
だいたい主人公が女性だ。
メルヴィルといえば仁義に生きるギャングたち
”男のドラマ”のはず。
それが、ごく普通の子持ちの未亡人の話だ。
そして此の女性、アラン・レネの「二十四時間の情事」で
岡田英次に「あなたはヒロシマを知らない」と
云われていたヒロイン・エマニュエル・リヴァだ。
でも、その時とは違い、表情が自然で可愛らしい。

舞台は第二次世界大戦中、アルプスに近いフランスの山村
その彼女が気まぐれで懺悔に入った教会で
適当に選んだ神父がジャン=ポール・ベルモンド演じる
”モラン神父”だったという訳。

此のベルモンドが「勝手にしやがれ」「リオの男」の
剽軽で調子の良いキャラとは全く異なる
誠実で実直な神の僕(しもべ)を演じている。
こんなシリアスな役も出来る俳優だったとは驚いた。

主人公の彼女は無神論者で
努めるオフィスの女性に憧れていたくらいだから
神父には何の興味も持っていなかったはずだが
彼の部屋で教義を受けるうちに
余りにも無垢な人柄に触れ、いつしか好きに成り
神父と判っていながら欲望まで感じ始める。

此の辺りで、此の映画、メルヴィルと云うより
人妻の禁欲と煩悩は
監督ルイス・ブニュエルの「昼顔」じゃないか?と
しかしメルヴィルらしさは、その時代背景を
きっちり描く処でブニュエルと違う。

イタリア軍にドイツ軍が入れ替わり占領される村
ユダヤ人だった夫と彼女に出来た娘は
収容所送りになるかもと、娘を疎開させる。
此れは「影の軍隊」の様な展開になるかと思うが
意外に、あっけなく戦争は終わり、
彼女は娘と暮らし始め、
その”心の弛み”を映画は背景として
彼女は、わざわざ訪ねて来てくれたモラン神父を
ひとりの男として、求め始める・・・という筋書き。

未亡人の恋心が顔に表れて、どんどん彼女が美しく成って来る
メルヴィルの演出が見事。
そして彼女が牧師の部屋を訪ねる時、
階段を登ったり降りたりするリズムが不思議な緊張感を作る。

カメラマンがヌーヴェル・ヴァーグの名作
「死刑台のエレベーター」「大人は判ってくれない」
そして「いとこ同志」を撮っている
アンリ・ドカエだから、光と影の計算が素晴らしく
モノクロながら、その画面の美しさに酔ってしまう。
音楽はフレンチ・ジャズの代表マーシャル・ソラル。
(オーソン・ウエルズの「審判」も彼だ)
静かに彼女の心情を繊細に奏でる。

此処からネタバレ注意!

結局、未亡人の神父との恋は実らず、別れという
月並みの結末が待っているが
その場面のベルモンドとエマニュエルの演技が
素晴らしく、切なく甘い余韻が残る。

さすがメルヴィル、ギャングだけでなく
女性映画も撮れるのだと感心。
我々日本人には宗教の重みは今ひとつ伝わらないが
それでも男女の出会いと別れは誰でも同じ。
ベルギーの女流作家ベアトリス・ベックが書いた自伝小説の
地味なテーマを映画化しようとした
イタリアのプロデューサー・カルロ・ポンティと
「勝手にしたがれ」の後、ベルモンドに
此の役を持って来たジョルジュ・ドゥ・ボールガールに
当時の映画作りの熱意が伝わって来る。
此の作品は1961年ヴェネチア映画祭で
さすがにグランプリを取っている。

娘に成る子役が何処か似ていると思ったら、やはり
「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッチだった。
そのカメラマンも確かアンリ・ドカエだったな。



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