”Nobody'Fool”ノーバディーズ・フール
此の映画でポール・ニューマンは
1994年ベルリン国際映画祭で主演男優賞を取り
全米映画批評家協会賞でも同じ賞を貰っている。
彼の長いキャリアは作品や監督に恵まれ、
それまでにも沢山の賞を取っているが
此の作品は晩年では最も輝いていると云えるだろう
・・・と結論を先に出してしまったが
何より脚本が良いのだ。
「俺たちに明日はない」の脚本家として知られる
ロバート・ベントン監督だから
演出するにあたって原作リチャード・ロッソを
ポール・ニューマン用に”当て書き”したと思える。
”当て書き”とは俳優に合わせた脚本を作る事だが
もともとポールが持っているユーモアのセンスや少年の様な
悪戯っぽさ、頑固さ、その総てが此の映画には自然に出ている。
話はニューヨーク州のはずれの田舎町に住む初老の男が主人公。
若い頃、妻と、うまく行かず、家を飛び出し
その時、置いて行った息子に偶然再会した事から始まる。
息子も既に成長し、家庭を持ち子供も居る。
久しぶりに会っても二人はぎこちない。
自分を捨てた父を恨んでいるのだ。
その確執が息子の息子(つまり孫だね)を通じて
画面に絶えず積もっていた雪が、春が来た様に溶け出し
なんとか家族の絆を取り戻すという物語。
それに絡むのが主人公の下宿先の女家主ジェシカ・タンディ。
彼女は主人公の子供の頃の先生でもあるという設定で
ポール・ニューマンとの交流は本当の親子以上の
温かさで伝わって来る。
「コクーン」や「ドライビング・ミス・デージー」で
超遅咲きながら花開いた老女優(85)の
気品の有る”たたずまい”は此れが遺作と思うと切ない。
そして「ダイ・ハード」や「シックス・センス」の
ドル箱スター、ブルース・ウィルスが
何とも女にだらしない経営者のチョイ役で付き合っている。
そのブルースの女房で亭主に愛想を付かせ
主人公に駆け落ちを迫るのが
「サムシング・ワイルド」「ワーキング・ガール」の
私の大好きな女優メラニー・グリフィス。
彼女もアカデミー賞ノミネートの実力派だ。
こう云う贅沢なキャスティングが作品を膨らませているのだ。
この四大俳優を始め、登場する町の人々のさりげない優しさを
丁寧に引き出したロバート・ベントンの演出が心憎い。
それにも増して印象に残るのはポール・ニューマンの存在感
彼が、子供の頃の家で、今や廃屋と成った建物を
車の中から淋しげに見つめる眼差しは
彼の過去の伏線となり、後の息子との和解に納得が行く。
「傷だらけの栄光」から「ハスラー」「ハッド」「暴力脱獄」
そして「スティング」「明日に向かって撃て」と
彼の映画を観て青春時代を過ごした私には
彼の奥目の淡い瞳が懐かしい。
マーロン・ブランドにも、マックイーンにも、デ・ニーロにも無い
彼独特の遊び心と哀しさを出せる俳優は
多分もう出て来ないだろう。