銀座の大手化粧品会社と言えば
何処だかすぐ分かる筈だが
そこからの依頼で企画、それも商品の取材から付き合えと、
その頃は珍しいスポンサー直(ちょく)の仕事だ。
その方は私の先輩ディレクターがよく付き合っていた人で
多少面識は有った。
会ってみたら私の頭をジロジロ見ながら実は育毛剤なんですが・・・
此れを見てもらえます?と新聞のコピーを出した。
そこには仙台の某氏が米の稲から髪の育毛剤を検出という記事が有った。
その某氏を取材して、それを基に
ウチの育毛剤のCMコンテを作って貰いたいんですが。
はあ、そんなので効くんですかね?と、私は半信半疑ながら、
ひょっとしたら私の救いの髪、いや救いの神になるかと。
その頃まだ、ポワポワと頭のてっぺんに薄毛が残っていたから。
スポンサーの今、仙台はホヤが出始めで美味いですよ!が食いしん坊の私に、
更に追い討ちを掛け、私は、すんなり仕事を引き受けた。
東京駅でクライアントと制作会社のプロデューサーと待ち合わせ
その某氏の住む仙台へと向かった。
新幹線を降り、タクシーは1時間くらい走ったと思うが
地方都市では大きな仙台市も田んぼだらけの田舎になり、
普通より少し大きめな、とある農家に着いた。
連絡はしてあったとみえ、頭の毛が薄い主人が出迎え、
名刺交換後、直ぐさま取材に入った。
後でコンテにしなくてはならないから、忘れない様にと
私はメモ用のノートを広げ聞いた話。
彼は当初、都会の人がマンション等のベランダでも米作りが出来る、
余り大きくならない自家栽培の稲の改良を進めていたと。
果たして、家庭菜園ブームに、それはヒットし
"ミニササニシキ”というネーミングで飛ぶ様に売れたらしい。
しかし、それは直ぐ飽きられ、出荷されず残った稲を
何か他に活用できないか?と彼は必死に研究、その結果
稲から取り出したエキスを髪の毛に付けたら
弱っていた細毛が太くなり、更に増えて来たと。
これはイケる!と新聞社に売り込み、記事になったと。
ほら、此れが以前の私と写真ファイルを拡げ、此れが今!と
頭を下げた私らの目の前にある毛は気のせいか
確かに濃くなっている様な、
いや、それ程でもない様な・・・。
此処までは私も仕事だから真剣に聞いていた。
しかし、その後から
実は私、ミニササニシキよりもっと凄い物を最近発見したんです!
と興奮気味。
それは何だと思います?私もクライアントも、ん?ん?
実は納豆!納豆に凄い育毛剤成分が有るのです!!
頭に付けると髪の毛がドンドン太くなるんです。
これはイケると思いましたよ。
しかし問題は、納豆のネバネバとその臭い。
頭が鼻に近いだけに我慢するのが非常に難しい。
それで、また攻め方を変え、口から入れたらどうか?と。
(いや、それなら納豆好きな私は毎日食べてるが)
この辺りでメモを取るのを辞め、部屋を見回すと、
先のミニササニシキで得た収益で海外旅行でもしたのか
TVの上に象牙の置物があれこれ。
壁には水墨画が色々。
私の座布団の下に敷いてあるのは高そうなペルシャ絨毯。
彼の話は、まだ続いた。
納豆を食べてると何だか毎日元気になるので
試しに肺活量を調べようと毎晩、風呂に潜り(どんだけ深い風呂なんだ?)
その潜水時間を記録するとドンドン伸びてるんですよタイムが!
(あれま、伸びるのは髪の毛じゃなかったっけ?)
此処で私は”すいませんトイレ貸してください”と立ち上がり
まだ真面目に話を聴いている二人を残し
ミニササニシキが無造作にズラーと並んだ手入れの悪い庭をブラブラ。
プロデューサーの”どうもお世話になりました!”の声を聞いて
慌てて部屋に戻り、一応頭を下げ、その家を後にした。
戻りのタクシーの中で
”此れコンテになりますかね?”とクライアント。
”いや、無理でしょう”と私。
その夜、私は仙台でも有名な居酒屋へ連れて行ってもらい
新鮮なホヤと旨い地酒をご馳走になった。
クライアントは”実は私、仙台生まれ、
明日はついでだから、実家の墓参りをしようかと”
”じゃ私も付き合わせて貰います”と腰の低いプロデューサー。
二人が、揃って私を見るので
”明日、午後打ち合わせがありますんで
早めに帰らせて貰います”と私。
勿論、打ち合わせなんか無かったけどね。
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