その9 ”焼き肉”
世間では焼肉屋に来るカップルは、だいたいデキていると。
しかし、その逆は無い。私は焼肉屋に誘って失敗した例もあるから。
今日の人は少し前、その最期の生き方がブームにもなった某女優
ではなくて、その夫。
”ロックンロール!”の一言だけで人生を全うした方の話。
彼は、その某女優の庇護の下というか
ずっと”放し飼い”の様な状態で自由に生きられた幸運な男だ。
麻布十番の奥の方に鳳仙花という有名な韓国料理店があり
先日コロナで亡くなった志村けん等の芸能人を良く見かけた。
その日、私は近くのアオイスタジオでダビングを終え
スタッフと食事に来ていた。
彼らが何時来たのかは気が付かなかったが
私と背中合わせの席に、焼肉屋には相応しくない
良い香水の匂いのする女性が。
その匂いの主は当時日米合作映画「将軍」のヒロインで
一躍、国際女優になった方だった。
そして、その向かいには聞いた事のある巻き舌で高い声の
”ロックンロール”が居た。
彼らは週刊誌に騒がれ、日本人なら誰もが知るカップル。
それも不倫の。
私は振り返って確認すのは失礼だから
知らん振りして食事を続けた。
その店は冷麺が旨いと有名だが
私は”コプチャン鍋”というモツ鎬が好きだった。
突然、”ロックンロール”の甲高い声の「オイっ!」
背中に何か険悪な空気が伝わって来た。
「お前な、焼き肉が嫌いなのか?」
「ううん、好きよ美味しかったわ」
「じゃ、食えよ此んなに残しちゃ勿体無いじゃないか」
「でも、もうワタシお腹が一杯」
「食べろよ!こんな良い肉」
「本当にお腹いっぱいなの」
「食えよ明日、何も食わなきゃイイんだから・・・」
背中で聞くと、此の会話はさながらポルノ映画
(そんなに私は観てる訳では無い!念の為)
無理やり男が女を口説いている風で生々しく
今、想い出しても最後の「明日、何も食わなきゃイイんだから・・・」
には私の向かいのプロデューサーと笑いをこらえ過ぎて
モツを吐きそうになった。
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