2021年12月26日日曜日

その6”緑色の猫”

私は、かつて大変な猫嫌いであった。

猫がそばに寄ってきただけで緊張し、それが

相手にも伝わりフーッと唸り、噛みつく奴もいて

困ったものだ。

私が手掛けたCMにY.M.O.ことイエローマジックオーケストラを

起用したFUJIカセットが有る。

それはY.M.O結成時から何時かCMで使いたい思い

米国の異色バンド、チューブスの前座を彼らがやるのを知り

明日プレゼンがあるという代理店のプランナーを中野サンプラへ

誘い、彼もハマって是非使いたいとスポンサーへ。

それは見事に成功、カセットだから、カセットの中から登場

という安易な企画でオンエアされた。

時代はウォークマン全盛、カセットテープは飛ぶ様に売れ

スポンサーのお偉いさんの娘が大ファンだという事で

次回作はなんぼ金をかけても良い!というお墨付きを貰った。

当時、MTVをやりたくてウズウズしていた私はどさくさに紛れ

CMだけでなく3分半くらいのロングヴァージョンまで企画した。

それは物語風でチェスをしている坂本龍一氏と高橋ユキヒロ氏が

いつの間にかフェンシングで戦っていて、細野晴臣氏が抱いていた

猫が突然跳ねて東京タワーへ飛んで行くという展開であった。

今なら恐らく私は猫にC.G.を使った処だが、当時はそんな技術は

無かった。

この猫が飛び跳ねるシーンを撮るのに、カメラを斜めに設定

高いところから猫を放り投げるという乱暴な技を使った。

カメラマン曰く猫は3mくらいなら軽く起き上がれるから大丈夫と。

果たして撮影を始めたところ、猫は嫌がって飛び降りない。

それもその筈、猫はスポンサーFUJIのイメージカラーの

緑色にされていたからである。

これも今なら簡単に毛の色など変えられるのだが。

予め動物プロダクションに人間の髪染め用の緑色を

塗って置いてくれと頼んでいたのだが、猫にそれは

難しく、サインペンの緑で一本づつ染めたとか。

それで猫は気持ち悪いらしく不機嫌でいう事を聞かない。

高い台の上で爪を立て飛び下りない。

そのお尻を無理やり押して落とすという今から思えば

残酷な事をした。

猫嫌いな私でも5回もやれば、もういい何とか撮れたんじゃない!

とカメラマンに言うと、駄目ちゃんとフレームに収まっていないと

くりかえすこと20回近く、最初は姿三四郎の飛び下り技の様に

クルッと宙返りして着地していた猫も段々疲れて来たのか

ドサっと足を伸ばさず体ごと落ちるようになってしまい。

それでもカメラマンは自分の家でも猫を飼っているから

大丈夫!とテイクを重ね、25回目くらいでやっとOKが出た。

責任逃れをするわけではないが、あくまでも虐待したのは

カメラマンで,

私では無い。

動物プロダクションの話では此の猫、なかなかの芸達者で

稼ぎ頭だったのが、その日以来、壁の方を向いたままの自閉症猫に

なってしまったと。

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