学生時代、阿佐ヶ谷に下宿していた頃
銭湯の前に貸本屋が在ったので定期的に本を借りていた。
一番読んだのが野坂昭如と三島由紀夫
それと漫画雑誌「ガロ」は毎月欠かさず購読していた。
その中で此の勝又進は好きだった。
その彼が少し前に亡くなったのは知っていたが
その直前に此んな作品を残していたのを最近見つけた。
深海魚:勝又 進
2011年の福島原発事故のずっと前に
彼は原発の放射能汚染をテーマに
そこの現場作業員それも下請けの汚染処理班の人々を描いた。
誰もが嫌がる仕事と片付けるには余りにも過酷すぎる労働。
次々と放射能に蝕(むしば)まれて行く彼等の肉体。
作者自ら現場で取材し、その恐怖を味わった表現は
リアルで読んでいて背筋が寒く成る。
初期の作品は、自分の生まれ育った
東北の民話に度々登場する河童や狸や狐が
人間と一緒に暮らしていた時代を背景に
あの映画監督・今村昌平も拠り所にしていた
柳田邦男の民俗学を基とする土着的な物語で
温もりがある”性”がモチーフだが
少女や童(わらべ)が絡んでいるので
「桑いちご」「赤い雪」等の作品では甘酸っぱい
何とも、ほのぼのとした郷愁が感じられた。
しかし、此の「深海魚」「デビルフィッシュ(蛸)」には
それは消え、現場作業員達の日常生活を淡々と描写している。
洗っても着替えても落ちない放射能
徐々に汚染され皮膚に浮き出て来る斑点に朦朧とする意識。
そして原発の排水に寄り付く不気味な大蛸
それがタイトル通り、デビルフィッシュ=悪魔の魚として
象徴的に原発の恐ろしさをつのる。
此の作品は2006年日本漫画家協会大賞となった。
それは彼の亡くなる前年、
先の福島原発事故が起きる5年前の事であった。
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