「とらや」のおいちゃん三代記
森川 信(1912〜1972)
TVの「男はつらいよ」から、その役を演じ
「馬鹿だねえ〜」の言い回しに独特の優しさが有った。
キャリアは古く、コメディアンを目指すも、
時はエノケン・ロッパ全盛時代
浅草に彼の出番は無く、やむなく
名古屋、大阪と流れ、東京より笑いに厳しい
関西の観客を相手に実力を養った。
東京に戻り人気が出て来て
江利チエミの「サザエさん」では”波平”を演じ
”とらやのおいちゃん”役では同じ軽演劇畑出身の渥美清と
何処までがアドリブか判らないほど絶妙なやり取り。
しかし、シリーズ8作目で病に倒れ、止むなく降板。
渥美清同様、山田洋次が初期のTVドラマで発掘した
彼のタレント性というより下町の団子屋の親父の雰囲気は
彼ならでは持ち味、山田洋次の切り札であった。
松村達雄(1914〜2005)
亡くなった森川信の跡を継いだというより
貧乏くじを引いたのが此の人。
生まれも育ちも森川と全く違う新劇畑出身
寅さんが良く云う「するてえと、お前インテリって奴か?」
だったので、森川のおいちゃんのイメージには
最後まで近づけなかった。
それでも9作から13作まで”おいちゃん”を演じた。
結局、降板させた監督・山田は彼の俳優としての素質を
高く評価して、「寅さん」シリースに役を変えて
何度も登場させ、彼の汚名を挽回させている。
まったくのキャスティング・ミスだったのだ。
彼の神経質そうなキャラクターは黒澤明の
「まあだだよ」の作家・内田百聞役でも見事にハマッていた。
下篠正己(1915〜2004)
松村の跡、此の役を引き継いだ彼も実は新劇畑出身だったが
”柄”が合ったのかシリーズ最後まで”おいちゃん”を演じた。
松村が必死で演じた下町ムードを彼の”枯れたイメージ”が
何もせず補っていたのである。
それは御前様役の笠智衆と同じ、年齢から滲み出るものだろう。
それでも寅さんに云う「馬鹿だねえ〜」は初代おいちゃん森川とは違う
上から目線であったが、それは山田洋次の目線に近かったのだろう。
私は一度、彼をCMのナレーターでお願いしたが
亀がマンションの宙を飛ぶ世界に戸惑っていたので
”温泉に入っている気分で!”と注文したら
見事に一発 OKであった。
とても嬉しかったのでエレベーターまで、お見送りしたら
「監督、わざわざスイマセン」と丁寧に、
お礼をされた記憶が有る。
こうして寅さんも亡く成り、おばちゃんも亡く成り
”とらや”の人々は、みんな居なくなって行くが
BSの”土曜日は寅さん”で毎週”お盆”みたいに会えるからイイね。
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