イグアナの夜
此の映画の監督はジョン・ヒューストン。
モンローとクラーク・ゲーブルを競演させた
「荒馬と女」の後、1964年に撮った作品。
ヒューストンは「白鯨」など小説を映像化するのが得意だが
此れはテネシー・ウィリアムズの舞台劇だ。
主演はリチャード・バートン。
彼の役は淫行を理由に牧師の職を追われ
今はツアー・ガイド。
女教師10人を引率してメキシコの名所巡りをしている。
その女教師達の中に若い娘(スー・リオン「ロリータ」)が
紛れ込んでいた事から話は、もつれて来る。
若い娘の激しい誘惑に、欲望を抑えられない彼は
その現場を女教師のリーダーに押さえられ
旅行会社に電話で”クビ”と通報させられそうになる。
それを何とかさせまいと、ジャングル奥地の
自分の女友達(エヴァ・ガードナー「渚にて」)の
ペンションに女教師達を強引に泊める。
女友達は夫を亡くしたばかり
彼に好意を抱いていて何かと彼の窮地を救う。
此のペンションは海が一望に見える丘の上に在り
其処に、もう一組、年老いた詩人とオールドミスの絵描き
(デボラ・カー「地上より永遠に」)が泊まりに来て
話は複雑に絡み合う・・・。
此の映画は少し前、取り上げた
ジャン=ピエール・メルヴィルの「モラン神父」と同じ主題
”神は人間を救えるのか?”という宗教観
そして”生きる意味”を問うていて、難しそうだが
コチラは原作がテネシー・ウィリアムスだから
登場人物それぞれの欲望が赤裸々に暴きだされ
やたら生臭く、映画としては面白い。
モノクロの映像に捉えられたメキシコのジャングルも
タイトル通り”イグアナの夜”、画面からの熱風に茹だるようだ。
映像は三船敏郎が出たメキシコ映画「価値ある男」の
カメラマン、ガブリエル・フィゲロアで流石。
DVDのオマケのメイキングに出て来るが
此の丘の上のペンションは
メキシコ半島奥地の海岸に建てられた
巨大なオープンセットと云う。
此処へ、ハリウッドの大スターを運び込み
2ヶ月以上掛かって撮られたと云う。
当時リチャード・バートンはリズ・テーラーとW不倫中
画面に映っては居ないが、リズはバートンに、ひっついて離れず
それを追って来たパパラッチも含めると
静かな田舎の漁村はシッチャカ、メッチャカの大騒ぎ。
でも、そんな事を微塵も感じさせないのが
”猛獣使い”と呼ばれた監督ジョン・ヒューストン。
先の「荒馬と女」でモンローの我侭に振り回されながらも
立派に映画を完成させた演出力。
大スターそれぞれの魅力を、見事に引き出している。
リチャード・バートンは”リズ”に夢中だったから
雄のフェロモンが体中からムンムン出ているし
デボラ・カーも難しい役をクールに演じて美しいし
特にエヴァ・ガードナーの年増女ぶりが可愛くて泣ける。
それらの演技が絡み合い、テネシー・ウィリアムスの台詞が
濃厚で複雑なスープの様に、たっぷり味わえる。
ジョン・ヒューストンには「火山のもとで」という
同じメキシコを舞台にした傑作映画が、もう1本有るのだが
どちらとは甲乙付け難い出来、やはり彼は凄い監督だ。
下に以前公開した彼のバイオグラフィーをもう一度。
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