刑事フォイル:50隻の軍艦(前後篇)
以前にも紹介したが、此の英国製のミステリーは
相変わらず面白い。
名探偵ポアロ、ミス・マープルの伝統を受け継いだ
最期まで犯人を絞れない謎解きが観る者を引きつける。
それでいて、此の作品には第2次大戦が始まったばかりの
ドイツ、アメリカに体する英国の国内事情が丁寧に描かれている。
先日、此処でも「TVドキュメンタリー傑作選」で触れたが
フランスがナチス・ドイツに占領され
ロンドン空襲を受けた英国市民達の恐怖と
荒んだ心が事件を生み、それが何層にも絡み合い
それを刑事フォイルが解決するという展開だ。
此の回も、ドイツの空爆にあった家から
貴重品が盗まれる事件と
英国がアメリカの参戦を促すべく
軍事援助を目的とした米国の自動車王を呼んでの
パーティにフォイルも招かれての夜
或る男が、近くの浜辺で殺されるという2つの事件が
重なって進行する。
先に貴重品泥棒は臨時の消防隊員達というのは
早めに観る者に知らされるが
浜辺で殺されたのは泥棒消防隊員の父親と言うのが前編。
此処からネタバレ注意!
刑事フォイルは、殺された父親がオックスフォード大学出で
学生時代、米国の自動車王と親友だった事を突き止める。
そして彼等が学生当時、一緒に自動車のギアの開発をしていて
卒業後、米国に帰った方が勝手に特許を取り
それで莫大な利益を得ていた事実を知る。
一方、盗まれた方は、出身が労働者階級だったので
(保守的な英国の階級制度はインドのカースト並み)
父親は卒業後、仕事ありつけず酒に溺れる暮しをしていたが
息子が、盗みを働く消防隊員である事を知り
何とか当人の希望する良い学校に入れたいという親心で
たまたま、旧友の自動車王が英国に来ている事を新聞で知り
自分にも特許の権利は有る筈だと、自動車王へ
金の無心に行って殺されたのだ。
そして此の殺人現場には目撃者が2人居た。
一人はUボートで海岸に来ていたドイツ人スパイ。
そして市内の空襲が怖くて、たまたま海岸で
車の中に寝ていた報道カメラマン。
しかし此のドイツ人スパイは、刑事フォイルより先に
軍部に捕らえられてしまうし
カメラマンも何故か軍部に連行されてしまう。
そう自動車王は、米国と英国の軍事的な駆け引きで
保護されていたのだ。
だからフォイルが証拠を突きつけ、殺人を暴いても
彼は本国に悠々と帰れるのだ。
(タイトルの「50隻の軍艦」は米国が約束する海軍)
此の狡猾な自動車王と、刑事フォイルの睨み合いが
此の作品のクライマックス。
米国へ帰る飛行機のタラップで、ほくそ笑む自動車王に
「此の戦争は、いつ迄も続く訳じゃない、いつか
特許泥棒と殺人犯のお前を追いつめ捕まえてやる!」の
フォイルの啖呵は大声では無いが、小気味良い。
刑事フォイル役のマイケル・キッチンの演技が素晴らしい!
そして此の事件の裏にも、上陸したドイツ・スパイを手引きした
ドイツ人妻と英国人医師の夫婦の愛憎と
フォイルが、且つてプロポーズまでした女性との再会が
”大人の恋”としてドラマチックに絡み
それぞれの”戻らない人生”が描かれ、それが何とも切ない。
此の脚本を書いているアンソニー・ホロヴィッツは
「シャーロック・ホームス(絹の家)」や
「名探偵ポアロ」も手がけていたという。
此のシリーズでは製作も兼ね、様々なディレクターを起用し
あの第二次世界大戦時の英国内の混乱を
”フォイルの戦い=Foyle's War”として追っている。