武満徹の映画音楽 その6
二十一歳の父
曽野綾子原作のベストセラー小説を中村登が映画化した作品。
彼は松竹では所謂大船調の監督であるから
此の映画も涙無くして見られない哀しい物語だ。
しかし「古都」で組んだ作曲家・武満徹の音楽に刺激され
ただのメロドラマに終わらないモダンな感覚の作品に仕上がった。
話は高度経済成長期のエリート家系の大学生が
盲目の指圧師の娘と恋に落ち、周囲の反対をよそに結婚
子供を授かるが、自動車事故で母娘もろとも亡くし
失意の彼は自殺してしまう。
周囲は何故、彼が自殺せねばならないのか?と
まだ若くやり直せるはずなのにと・・・。
主人公を当時TVドラマ「若者たち」で人気のあった山本圭が、
そして、まだ”寅さんのさくら”を演じる以前の
倍賞千恵子が悲劇のヒロインを清々しく演じた。
そして此の映画の”コア”となっていたのが
主人公の父親を演じた名優・山形勲。
私には彼は東映時代劇の悪役としか記憶になかった
此の俳優の演技力に圧倒された。
成瀬巳喜男の「浮雲」以来の名演だろう。
父親として息子を影で支え、報われず死なせてしまった
その悲しみが観るものに深く伝わり涙を誘う。
その場面にリフレインしていたのがシューマンの「初めての悲しみ」
子供用のピアノ練習曲であるが、武満徹の編曲により
ギター・ソロに管弦楽四重奏と緩急自在。
そしてラストシーン同級生のラグビーシーンに
付けられた武満の現代音楽は当時、多くの評論家に
無用と言われたが、私にはアレが有ってこそ
此の作品に現代性が出たのだと感じた。
改めて武満徹の才能に感服する。

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