2015年7月18日土曜日

NHK木曜時代劇「風の果て」全8回
藤沢周平の小説は大好きで
ウチの本棚には文庫本が全部並んでいるが
此のTVドラマ化は見ていなかった。
去年死んだ筈の蟹江敬三が出て来たので
此れが2007年のオンエアの再放映と判ったが
出来の良い仕上がりに毎週楽しみに観て何度か
此処に載せようと思い、それでも最終回を
観てからにと今日に至った。

舞台は藤沢小説お馴染みの東北は山形らしき海坂藩。
その藩の道場に通う5人の若者の物語。
それぞれの家の地位には上下がある。
1人を覗いて皆”冷や飯喰い”である。
冷や飯喰いとは封建社会では嫡男以外の事
跡継ぎが死んだ時のスペア、もしくは
男子の産まれない家への婿養子としてスタンバイし
陽の当たらない部屋で、冷や飯を食い続ける事なのだ。
それでも此の物語の彼等は若者らしく対等に付き合い
酒を飲み、熱い友情を育んでいた。
しかし時は残酷にも、それぞれの運命を変えて行く。
一番、人の良い寺田一蔵は冷や飯喰いの身分から
抜け出そうと、婿養子入りをするが、美人の嫁は再婚
しかも身持ちの悪い女で、その浮気が原因で
相手を殺し彼は脱藩してしまう。
その彼の追っ手に、仲間4人が命じられ
それぞれの家庭の事情を考え野瀬一之丞が、それをかって出る。
劍の立つ彼は、命乞いをする一蔵を斬ってしまう。
それから彼は友達を斬ったという罪の意識に苛まれ
自暴自棄となり、何故か?斬った一蔵の嫁と同棲を始める。

また元々、身分の良い杉山鹿之助(仲村トオル)は
どんどん出世して筆頭家老の職にまで登り詰める。
主人公とライバル関係の大事な役だが
惜しいかな此の杉山役の仲村トオルは
時代劇の立ち振る舞いが、何とも心もとない。
中井貴一あたりがやっていたら
二人の対立に、もっと深みが出たと思う。

一方、出世欲の無い三矢庄六は藤井家に婿入りし
死んだ一蔵の墓を護りつつ、静かに人生を送る。
恐らく此の三矢こそが藤沢周平の理想とする
武士の姿なのだろう。

さて、やっと主人公の上村隼太についてだが
物語冒頭、極貧の彼の幼少時代が描かれ、
当然、冷や飯喰いになるのだが、彼には強い向上心があり
たまたま出会った郡奉行の桑山孫助(蟹江敬三)に気に入られ
婿養子となり、桑山又左衛門を名乗る。

藤沢周平の小説には必ずといって良い程
封建社会の権力闘争が出て来る。
「蝉しぐれ」「たそがれ清兵衛」「武士の一念」等
現代サラリーマン社会に話を置き換え易いのが
藤沢小説が人気のある理由の1つだろう。
此の作品も例外では無い。

主人公は藩の執政に睨まれて一度は失脚するも
不遇の中、義父と試みた藩の荒れ地の開墾が
ようやく主君に認められ出世し、藩政の中枢に近づく。
そこで、すでに筆頭家老になっていた杉山と対立し
遂には彼を蹴落とし、藩の権力を手中にする。

主人公は”心”の動きを”風”に例え
はやる心を”風が吹く”と感じ
”風の果て、足るを知らず”と野望に燃える。
「風の果て」という題名は、そこに由来する。
上昇志向だけの生き方の自分に嫌気を感じつつも・・・。
本来なら若い時の桑山を直向きな佐藤浩市が演じ
晩年の姿を老獪な三国連太郎がやったら完璧だろうが
それでも此の作品で佐藤は時々、三国の顔に成っていた。
佐藤浩市の役者としての成長が窺える。

しかし、今回のTVドラマ化で”核”となったのは
野瀬一之丞(遠藤憲一)の存在だろう。
友達を斬った野瀬役の遠藤憲一の暗さが良い。
その不気味な緊張感がサスペンスを最後まで引っ張る。
そして主人公は出世欲に燃え、それを達成しつも
自分こそ、あの時、一蔵を斬るのが友情だったと悩む。
物語は彼等の”青春の蹉跌”の決着を
最期に桑山と野瀬の”果たし合い”という形でつけ、終わる。
どうせ死ぬなら彼奴に斬られたい!は
男の究極の愛の表現か?泣ける場面である、
此れから先は、まだご覧になっていない方
小説をお読みになっていない方の為に伏せて置きます。
ドラマはDVD化されていますのでレンタルでどうぞ!
お金と時間のない方はYouTubeにも在ります
是非、順番通り観て下さい。
脚本(竹山洋)音楽(岩代太郎)演出(吉村芳之・大関正隆)
いずれもNHK制作にしてはレベルが高いです。

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