2015年11月26日木曜日

訃報
川崎敬三に続いて原節子も亡くなっていた。
比較するのも悪いが彼女の方が大ニュースである。
日本映画の名作のヒロインとして活躍した
作品は数知れず。
その日本人離れした美貌はリアルタイムに
間に合わなかった大学生の私を虜にし
今ほどヴィデオやDVDの無かった時代
京橋の国立映画センターの名画上映の列に並んだものだ。
オーバーに云えば初恋の人は彼女だったかも知れない。
まあ、とにかく此れから高倉健特集の様に
原節子特集がBSに組まれる事だろう。
まっ、DVDで殆ど持っているけど・・・。

では、だいぶ前に出した此の映画の感想を。
七色の花(1950)
新潮社が出した「原節子のすべて」という本を友達に頂いた。
原節子が引き隠った理由を週刊新潮らしく暴露して
それなりに面白かったがオマケに付いていたDVDが
此の「七色の花」。
”幻の原節子映画”という様に関西のコレクターが持っていた
原版をリマスターしたものらしい。
しかし此の映画、実はヒロインは原節子ではなくて
上の写真で竜崎一郎の隣りに居るキモノ姿の杉村春子だ。
此の時、彼女は実年齢44歳
後半に登場する原節子(30歳)に比べれば可成りの年増だが
杉村の演技やカメラの撮り方で、やたら艶っぽく
この映画の設定で堅物の小説家という竜崎が、
杉村のねっとりとした誘惑に負けてしまうのも無理は無い。

杉村春子と云えば日本を代表する大女優。
文学座の代表として自ら舞台で活躍する他に
亡くなった太地喜和子を育てて来た人
その仕草や表情が、太地の絶頂期を思い出させる。
(喜和子は杉村を完全コピーしていたんだな)
杉村の演じる役は、先日、男優篇で紹介した三島雅夫の
踊りや小唄の師匠もしているが
パトロン三島に生活費を貰って生きている。
その関係が名優・三島の人間臭い演技で
何とも生臭く、リアルに描かれている。
一方、主役の竜崎は戦後、南方から復員して来たが
妻を空襲で亡くした小説家。
焼け野原で拾った孤児の少女(角 梨枝子)を面倒みている。

後に大映で、やたら色っぽいマダムを演じていた角だが
此処では、若く肉体を持て余している小悪魔を演じている。
その誘惑に負けない竜崎に想いを寄せる先輩の娘が原節子。
しかし竜崎は、それに気づかず、
妾からの脱出を計る杉村春子の誘惑に負けてしまう。
夏の蚊帳の中、回り灯籠、虫の声に波の音・・・。
この辺りは朝日新聞の連載小説とは思えない官能的な描写だ。
此の映画、スタッフが凄いのだ。
監督の春原政久は戦前の日活からスタートし
東宝の「三等重役」など喜劇を得意とした人だ。
この映画でもパパさん三島雅夫と杉村春子のやり取りが
洒落たコメディで笑わせる。
しかし、原節子が出てくると突然、小津安二郎映画に
成ってしまうから不思議。
恐らく此の頃の原節子の美貌は彼女から出るオーラで
カメラ、照明、スタッフ総てを虜にしてしまったのだろう
とにかく彼女の登場する画面が輝く様に美しい。
結局、自殺未遂までした原節子に負けて、杉村が身を引くという
メロドラマだが、今、観ても古く無い台詞は
あの新藤兼人や船橋和郎の名も見える共同脚本。
音楽は伊福部昭、既に「ゴジラ」「ビルマの竪琴」の
重く哀しいマンネリ・メロディが使われているのが可笑しい。

杉村春子は、いずれ”女優篇”でもう一度登場させるつもりだが
彼女が映画の前半、やたら美しく色っぽいのが
後半、見事に年増女の深情けをみせる”芸”を観るだけでも
此の映画の価値あり。

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