2012年12月22日土曜日

(日本映画・女優編)
北林谷栄(1911〜2010)
実は私は学生時代、生(なま)の彼女を目撃している。
それは建築家・黒川徽章が設計した
赤坂の地下のクラブ「スペース・カプセル」
武蔵野美術大学の講師だった粟津潔先生に
紹介されたアルバイトで其処の照明係をしていたのだ。
そのクラブはアトラクションも変わっていて
土方巽の暗黒舞踏から外人ヌード・ダンサーのゴーゴー等
当時の爛熟したアンダーグラウンド文化そのものを”出し物”としていた。
脇のスタンドBARのカウンターに小さな穴が空いており
コインを入れると無修正の春画が覗ける仕掛けになっていた。
篠田正浩の映画「心中天網島」の美術で春画をセットに組んだ
粟津先生らしいアイディアだった。
其処に或る夜、北林谷栄が若い燕の様な青年とやって来たのだ。
宇宙船をイメージした近未来のインテリア、超モダンなクラブに
ハリウッド女優の様なメイクと衣装を着た彼女を
遠くから見て”北林谷栄”と判るまで、かなり時間がかかった。
そして、映画「キクとイサム」や「ぼんち」の汚れた老婆とは
とても信じられなくて、只、あっけにとられて観ていた。

その後、私はCMの演出家という道を選び、大物女優と呼ばれる
大原麗子、三田佳子、桃井かおり、泉ピン子等を
相手に”猛獣使い”の異名を貰い、散々、女優の”虚”と”実”を
見せられたが、それは、その時が最初であった。

又、その変身ぶりを利用したのが今村昌平監督
「にっぽん昆虫記」では農村の老婆と、新興宗教を隠れ蓑にした
売春組織の元締めという全然別の2役を彼女に演じさせた。
気味の悪い色気を持った年増役は誰も北林と気付かなかったろう。

彼女のリアリズムに対するこだわりで有名なエピソードは
ロケの途中,田んぼに立っていた案山子のボロ衣装を
古着として譲って欲しいと近くの百姓に頼んだとか?

今井正監督の「喜劇・にっぽんのお婆ちゃん」では
警官に追われて街中を走り回り、転ぶのなんのとスタント・ウーマン並みの
動きをこなした。それは彼女の実年齢(51歳)が若かったからだろう。

彼女は98歳まで生き、長寿を全うしたが
その時は、いったい何歳くらいに見えたのだろう?



0 件のコメント:

コメントを投稿