2012年12月22日土曜日


喜劇・にっぽんのお婆ちゃん
最後まで日本共産党員だった社会派の監督・今井正が
松竹というメジャーな会社でメガフォンを撮った1962年の作品である。
脚本は成瀬巳喜男の「浮雲」、市川崑の「おとうと」、
渋谷実の「もず」と、日本映画史上に確たる名を残す
水木洋子のオリジナル(此れが素晴らしい)
今ほど高齢化社会と騒がれなかった頃の老人問題を
喜劇と称してシリアスに、そして娯楽作として描いた作品である。
此の映画の魅力は水木洋子の緻密な構成力に依る
ドラマの面白さもさることながら、その老人達を演じた
俳優たちの存在感が圧倒的に面白い。
まず主役の婆さん二人を北林谷栄とミヤコ蝶々が演じる。
北林谷栄は老人ホーム暮らしだが
同室の婆さんにドラ焼きを盗んだと、あらぬ疑いをかけられ
自殺をほのめかす手紙を残しホームを飛び出す。
ミヤコ蝶々は息子家族と団地で同居しているが夫の残した貯金を
息子に使われてしまい、息子の嫁に邪魔者扱いをさせられて
家出して来たというワケ。
その二人が、たまたま、浅草仲見世のレコード屋の前で聴いた
橋幸夫の「木曽節三度笠」で気が合い、仲良く成るというもの。
此の女優二人の演技の張り合いが凄い!
北林が同じ民芸・宇野重吉風の細かい芝居を見せれば
ミヤコは逆に無表情(ふて腐れ)で受けの芝居で対抗する。
此のとき北林谷栄の実年齢は51歳
72歳と云う設定だが,それ以上の80歳くらいに見える。
特殊メイク等無かった時代だから、どうして顔の皺は作ったのか?
そうしてヨボヨボ歩き、夕方に成ると目が見えなく成る
仕草は本物としか見えない驚異的な演技力。

もう片方のヒロイン?ミヤコ蝶々だが
彼女が此の映画に出演した時、実年齢は42歳,役の設定では62歳
年齢的に肌がキレイで北林の老けぶりには敵わないが、
彼女の役者としてのキャリアは7歳が初舞台だから
北林より長く、その実生活での苦(にが)い苦労は彼女の表情に
陰りや真実味を与えている。
此のバランス、監督・今井正はタイトルに”喜劇”を冠するのに
ミヤコ蝶々の名前が不可欠と考えたのだろうか?

此の映画の魅力は山田洋次をして、
当時は演技の巧い脇役俳優が豊富で羨ましい!
と云わしめた処に在る。
それは戦前戦後の日本を実際に生き抜いて来た俳優達の
年輪の様なものが演技以前に感じられるからだ。
そして私には30年以上住み慣れ親しんだ浅草の風景
仲見世、花やしき、六区歓楽街、ひさご通り、国際通りと
ふんだんに登場するロケ現場が懐かしい。
ともあれモノクロで描かれた此の映画はタイム・マシンの様に
過去の自分を思い出させるのだ。
先に云った様に此の作品のテーマは重い。
高齢化社会の家族のあり方、老人施設の体制、そして本当の
人間の幸福とは何か?と問いかけている。
芸達者な俳優達の演技は面白いが、けっして笑えない。
過去の物語ではなく、今もっと厳しさを増している現実なのだ。
社会派監督・今井正の先読みは確かだった。

此の映画に登場する俳優達のキャリアは、そのまま日本映画史に
成るので改めて”キネマ通り”Stardust Memories★星屑たちの記憶として
コーナーを作る事にしました。
女優編、男優編、そして外国映画へと長いシリーズに成りそうです。

0 件のコメント:

コメントを投稿