2012年9月10日月曜日

浪人街(1991)
監督・黒木和雄にとって「竜馬暗殺」以来の時代劇である
此の作品は映画の面白さが詰まっている。
昭和3年、無声映画時代に、当時若干20歳で此の作品を撮ったマキノ雅弘は
”映画は1にスジ(脚本)、2にヌケ(映像)、3にドウサ(演技)”
と晩年、言い切っていた。
その巨匠マキノ雅弘の監修も有り、
何度目かのリメイクであるが
脚本(スジ)が「総長賭博」「仁義なき戦い」の笠原和夫
撮影(ヌケ)がドキュメンタリー出身の高岩仁(ラスト部分・宮川一夫も参加)
演技(ドウサ)に当時、脂のノリきった俳優たち(上の写真)が
参加した此の映画は文句無しに楽しめる。
「竜馬・・」以来の監督・黒木和雄とのコンビである原田芳雄は
此の役を自分に引き寄せ、そのニヒルな浪人像は
今の時代にも通じる現代的な解釈だ。
石橋蓮司は表情こそ押さえてあるが胸に秘めた激情の表現が
素晴らしく私の知る限り彼のベストでは無いか?と。
そして勝新太郎
先の二人、実は勝新のTV版「座頭市物語」のレギュラーと
云って良いくらい度々共演している。
その演出もしていた黒木と原田、石橋が勝新を巻き込んだに違いない。
いや彼ら”映画馬鹿”どうし、酒の席で盛り上がって作ったか?

勝新は「影武者」を降板して以来、映画でちゃんとした
役はやっていないが、此の作品では「座頭市」とも「悪名」とも
違う面白い演技を披露している。
市川崑や勅使河原宏と同じ新感覚の黒木監督の下で
自分が作った先のキャラクターを否定する様に
人間の弱さ哀しさを身体で表現している。

それに絡むヒロインが樋口可南子。
登場する男達が皆、浪人だから薄汚れて汚いが
彼女が登場すると場面が華やぐ。
それでも夜鷹だから汚れ役なのだが、とにかく美しい。
それだけでは無く、彼女には男達に負けない意地があり
敵役の旗本たちに一番先に乗り込む潔さ・・・。

そうそう、ストーリィを書くのを忘れたが、江戸時代の末期
戦の無い時代に暇を持て余した旗本たちが
夜鷹を次々と殺して憂さを晴らしているのを見かねた
浪人達が旗本達に戦いを挑む話だ。
その浪人達の性格付けが様々で
田中邦衛、扮する浪人等は、まだ仕官に夢を持っていて
なかなか立ち上がらないし
先の勝新などは敵に寝返ってしまう。

まあ、そんなこんなでラストの大立ち回りと成るわけだが
その浪人達の殺陣も変化に富んでいる。
原田芳雄は剣道など習ったことは無いのではないかと
思えるほど出鱈目だが実戦的で滅法強いし
石橋蓮司は居合い抜きだから1人切っては鞘に納める律儀さ
田中邦衛は兜を付け、馬に乗ってと派手な事。
そして勝新は?これは観てのお楽しみ。

その勝新太郎を始め
此の作品が最期になったという人が居る。
ラストの大立ち回りを撮ったカメラマン宮川一夫。
溝口健二、黒澤明、市川崑と日本映画の名作を総て撮って来た
この人のカメラワークは流石で此れが遺作と思うと切ない。
そして居酒屋 の親父で渋い演技を見せている
往年の時代劇俳優・水島道太郎も此れが遺作
何かに耐えている演技は鶴田浩二や池部良と同格で
彼の長いキャリアの積み重ねが生んだ表情だ。
脇役だが佐藤慶、中尾彬、外波山文明などの憎たらしい芝居は
悪役が丁寧に描かれてこそ映画が面白くなるという定説通り。

メジャーな映画会社で作られた訳ではないが
近年亡くなった原田芳雄も含め
映画の面白さを知り尽くしたプロが集結した此の作品は
もっと評価されて良いのでは無いか?


0 件のコメント:

コメントを投稿