「薄化粧」(1985):五社英雄監督作品
此の映画、冒頭から主演が緒形拳でもあり
今村昌平の「復讐するは我にあり」と話が酷似しているので
西口彰事件を扱っているのかと思ったが、別の話(西村事件)だった。
先の”復讐する・・・”の6年後に製作された此の映画。
監督・五社は先の今村昌平に対抗して、緒形拳をどう演出するのか?
どちらも全く同情の余地のない殺人鬼の話である。
”薄化粧”という艶かしい題名は、此の殺人鬼が逃亡するのに
蛇の様なと言われた自分の顔に化粧を施し・・・と言っても
薄い眉を太くし眼鏡をかけるだけだが。
それで他人に成り済まし8年にも及ぶ逃亡生活をした事から来ている。
脚本は時系列を組み替え、最初の爆弾事件で逮捕され、
刑務所に入れられた彼を尋問する刑事(川谷拓三)に
自ら首を切って脱獄する所から始まる。
頸動脈を切るのだから、大した度胸で有る。
観るものは、此の激しい男(緒形拳)のエネルギーに圧倒され
銅山の組合騒動を裏切る話もまさか?と思うが
それも欲望のまま生きる此の男の生き様と、ついていくしかない。
自分の女房と子供を、成り行きとは言え殺害し
家の床下に埋め、そこへ愛人(浅野温子)を迎える神経は
呆れるしかない。
まして、借金の方に人の女房を抱き、その娘(松本伊代)に惚れ
結婚すると言われると、その夫の家ごと爆弾で吹き飛ばす。
脱獄した彼を追う刑事に気付き、その採掘現場を逃げても
新しい土地で、また飲み屋の女(藤 真利子)に惚れられ
何故、女達は此んな男に弱いのか?
此の映画のサブ・タイトルは”何をしてもええ、やさいして”
そんな、欲望だけで生きている男の魅力を演じさせたら
他に居ない緒形拳!
人間とは不思議な生き物。そんな極悪人でも
何処かに罪の意識を持ちながら逃げ回る。
先の”復讐する・・・”では逮捕された車の中で
呟く様に賛美歌を歌っていたが
此の映画では、小さい仏壇を逃亡中も運び、中には
妻と息子の位牌の代わりに小石を入れている。
そんな人間性を、ときに繊細に、そして豪放に演じ分ける
昭和の名優・緒形拳の此の2本!是非観て欲しい。
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