2023年8月11日金曜日

北林谷栄 (1911~2010)

最初に彼女の印象が残ったのは今井正監督の映画「キクとイサム」

戦後の駐留軍兵士と日本人の間に生まれた今で言う

ハーフの子供達の祖母役が彼女。

当時は混血児、アイノコと虐められた彼らを

懸命に守り育てる気丈な婆さんを演じた。

此の頃の日本映画のお婆さん役と言えば居るだけ、

”静かな年寄り”そのまま存在感は殆ど無かった時代、

しかし彼女が演じると静かでも其処に”本物の老婆”が居た。

市川崑監督の「ビルマの竪琴」には約30年後のセルフ・リメイク作品にも、

ビルマなまりの怪しげな日本語を使う物売り老婆役で再出演している。

驚いてしまうのは「今村昌平の「にっぽん昆虫記」では

主演の左幸子の田舎の祖母から、彼女が上京してコールガールになり、

その女元締めの役を彼女は2役で演じているのだ。

腰が曲がった皺くちゃな婆さんと、厚化粧の遣り手ババアを

同じ女優が演じていたとは誰もが気付くまい。

(たぶん彼女の演技力を知る監督・今村昌平の遊びだ)

その厚化粧の方はTV「前略おふくろ様」で倉本聰が

元美人芸者分田上の女将・浅田ぎん役で踏襲した。

厚化粧というわけでは無いが私""で彼女を見たのは

武蔵美の学生時代に粟津潔教授斡旋のアルバイトをしていた時

黒川紀章設計の赤坂の地下のディスコに"若いツバメを連れて彼女が現れた。

彼女はミンクか何か黒い毛の長いコートを着ていた。

それが北林谷栄と気付くまで、かなりの時間が掛かったが

とにかく彼女の紅い口紅の印象が強く残って居る。

それは当にビリー・ワイルダー監督がアガサの"検察側の証人"

映画化した「真実」のマレーネ・デートリッヒと逆の変身だった。

此の時、彼女は幾つだったのだろう?

今井正は「喜劇にっぽんのお婆ちゃん」では

関西からミヤコ蝶々を呼び、演技合戦のようにして

当時、高度経済成長の最中だった日本に

既に高齢者の社会問題が始まっていたのを追及していた。

社会問題といえば山本薩夫監督の「人間の壁」「松川事件」

そして、それを喜劇にした「にっぽん泥棒物語」にも出て居るし

熊井啓監督では「帝銀事件 死刑囚」「日本列島」と、

過酷な昭和の歴史を生き抜いた女性たちの実像をリアルに表現していた。

リアルと言えば、彼女の有名なエピソードに

地方ロケで通った田んぼに立ててあった案山子の着物を

持主にせがんで譲り受けたとか、

韓国オモニの着古したそれを貰い受けたて、

それらの役が来た時用に集めていた。

演技だけでなく衣装にも並ならぬ拘りが有ったと聞く。

とにかく日本映画史上の名作と呼ばれる作品には

必ず、彼女の名はクレジットされている。

それだけ巨匠達に彼女は愛されたという事だ。

晩年、体調を崩してからもリハビリでカムバック

勅使河原宏監督の「利休」での北の大政所

岡本喜八監督の「大誘拐」では、ご覧の様に

ポスターが緒形拳の顔と半半にコラージュされている。








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