『白夫人の妖恋』(1956) : 監督 豊田四郎
此の作品は私が10歳の時、既に嫁いでいた姉と、その夫に
せがんで連れて行った貰った栃木の映画館で観た。
今思えば子供には理解できない男と女の情炎が燃え盛る
激しい内容だが、私には特撮の面白さに圧倒され
いつまでも忘れえぬ記憶となった。
監督・豊田四郎は「夫婦善哉」「雪国」「濹東綺譚」と
男女の情愛を描かせたら当時でも有数の人であった。
その監督に中国の民話”白蛇伝”を林房雄が小説に
八住利雄が脚本にしたもの。
東宝、初の総天然色イーストマンカラー。
主役の白蛇の化身・白娘(パイニャン)に山口淑子。
彼女は満州で中国人・李香蘭として育てられ、
日本軍国主義の国策映画のスターとして
又、中国人に成り切っていたため戦後スパイとして
戦犯扱いだったが、自分が日本人と証明できて
戻って来た数奇な運命な女優である。
子供の私が彼女を観たのは此れが最初だった。
相手役の許仙(キョセン)に当時の二枚目スター池部良。
此のコンビに未だ娘盛りの八千草薫が魚の化身・小青。
私を興奮させた特撮は勿論”ゴジラ”の円谷英二。
そして後で分かったが美術に武蔵美の教授だった三林良亮太郎。
彼は舞台美術家で日本のオペラ舞台を多く手掛けている。
此の映画の2年前、彼は日伊合作映画「蝶々夫人」(主演・八千草薫)
ローマのチネチッタ撮影所に見事な日本庭園を再現させて見せている。
だから此の映画でも香港から園真という美術家を招いて
中国の建物から風景まで完璧な背景には目を見張る。
そして音楽は当時、日本映画音楽というより
オペラ、交響曲、管弦楽と作曲家としてトップだった團伊玖磨。
これだけの本物(一流スタッフ)に囲まれた李香蘭こと山口淑子の熱演に
何だか分からないが、少年の私は鼻血が出そうになったのを記憶している。
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