「白雪姫と鏡の女王」(2012)
TVドラマでヒットしている”ワンスアポンナタイム”や
”本当は怖いグリム童話の世界”のせいか
子供相手の童話の映画化が増えている。
此の作品もグリム童話の”白雪姫”の話だが
ハリウッドがジュリア・ロバーツ主演で
ファンタジー・スペクタクルとして製作した。
さすがにジュリアが白雪姫に成るのは無理で
彼女を殺そうとする義母、実は魔女の役。
此れが実にハマって”101匹”のグレン・クローズの
悪女クルエラ並みに怖くて面白い。
しかし、此の映画の本当の面白さは
監督ターセム・シンが作り出す魅力的な美の世界だ。
彼はインド人ながら米国留学で映像を学び
ミュージック・ヴィデオの演出で頭角を表し
長編映画に進出した異色な映像作家。
その凄さは此のR.E.M.のヴィデオを見て貰えばわかるはず。
無国籍というか西洋でも東洋でも無い、
その美意識は全くのオリジナル。
そして彼の、その美学を具体化させているのが
”衣装”として参加したデザイナー石岡瑛子。
彼女は私が広告業に入ったときは
資生堂のグラフィック担当のアート・ディレクターだった。
日本人離れしたダイナミックな構成力に
当時、圧倒されたものだ。
その後、彼女は単身、米国N.Y.に渡り
いつの間にか”衣装”というジャンルで
"シルク・ド・ソレイユ”やミュージカルの舞台衣装で
高い評価を得た。
私はポール・シュレイダー監督の「Mishima」の美術で
彼女の新しい挑戦を目にした。
此のビヨークのミュージック・ヴィデオでは演出もしている。
そしてフランシ・F・コッポラの映画「ドラキュラ」で
1992年、堂々のアカデミー衣装賞。
同じアジア系のターセム・シン監督と彼女の出会いは
まさに創作的な”蜜月”とも言えるもの。
彼と彼女のコンビで生み出す究極の美の世界は
前作「インモータルズ」でもギリシャ神話を
想像を超えるスペクタクル映像の作品にした。
そして、此の誰もが知っている可愛いメルヘンを
監督ターセムは脚本の段階で、ひっくり返し
大女優ジュリア・ロバーツの芝居心を立てながら
新人のリリー・コリンズの魅力を引き出す
微妙なバランスを取ることに成功している。
7人の小人が巨人に化けていたり
(三宅一生のプリーツの様に伸び縮みするズボン)
その小人達から剣を習って、
白雪姫が凄い剣士に成るエピソードは楽しい。
(小人達はテリー・ギリアム監督の
名作”バンデットQ"へのオマージュだろう)
とにかくディズニーとは全く違う”毒”のある童話。
ターセムと石岡の目眩くその世界は
もっともっと観てみたい気にさせるが
石岡瑛子は此の映画が公開された、その年に
膵臓癌で突然、亡くなってしまった。
ラスト・タイトルに”石岡瑛子に捧げる”と。
ターセムは、誰よりも彼女の死を悼んでいる。
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