2023年9月27日水曜日

「雪之丞変化」(1963):市川崑監督作品
長谷川一夫の300本記念映画で有る。
彼は林長次郎(1935)時代に衣笠貞之助監督で同じ役を演じているが
大映の社長永田雅一と市川崑の雑談から始まった此の企画
監督はともかく此の時、おん年65歳の長谷川が良く承諾したもので有る。
冒頭から二重顎が気になるが、それが彼の芸で消えて行く。
そう、市川崑は、此の”長谷川一夫”という日本映画屈指の逸材を使って
可成りの映像的な実験をしている。
先ず歌舞伎役者の話で有るから、歌舞伎の舞台の様に上下を切って
シネマスコープを生かした舞台劇としてドラマを展開する。
更に歌舞伎というより前衛劇の様に、ここぞという時
突然、照明を暗くして彼だけにスポットを当てた。
此れで65歳の長谷川は消え、前作で女形上がりの衣笠貞之助監督に
仕込まれた中村雪之丞そのものとなった。
それにしても丁寧なカット割りにアングルに
さすが宮川一夫と思ったらカメラは小林節雄!
その頃、長谷川は彼専属のカメラに照明、衣装にメイクと決まっていたのを
市川はカメラだけは東京の小林節雄と譲らなかった。
真っ黒な画面に浮かび上がる白い雪之丞の美しさに誰もが息を飲む。
”色々遊ばせてもらいましたよ”と後日語った監督・市川崑の
実験的な映像は、後の「東京オリンピック」に繋がる。
それまで誰も観た事のない宙を飛ぶ、岡っ引きの長縄
更に白刃だけが舞う立ち回りと
当時の市川崑はアイディアに溢れていた。
 それらを目撃していた助監督の井上昭や撮影 B班の池広一夫の興奮や如何に。
それでいて♪流す涙が〜お芝居ならば〜の東海林太郎の歌で始まる
原作・三上於菟吉を脚色した伊藤大輔と衣笠貞之助に
更に和田夏十の脚本は現代でも通用する言葉に置き換え
陰惨な復讐劇のおぞましさを伝え、虚しいラストに
何とも言えない熱い余韻を残している。

これまで林長次郎から東千代之介、美空ひばり、大川橋蔵と
何度も映画化され”忠臣蔵”と並ぶ日本人好みのストーリィだが
此の市川崑の雪之丞変化”を超える作品は出て来ないだろう。


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