黒澤明の映画音楽#5
生きものの記録 (1955):早坂文雄、佐藤勝
原子爆弾の恐怖に怯え、日本脱出を試みる老人を描いた此れは
クロサワ作品の中では最も不評で観客動員も少なかった作品である。
それはクロサワの盟友ともいえる作曲家・早坂文雄が映画の完成以前に
結核で亡くなった。享年41歳早すぎる死であった。
それはクロサワに影響を与えた4つ上の兄の自殺をも思い起こさ
作品の演出に力が入らなかったかも知れない。
音楽は早坂のスケッチを元に弟子の佐藤勝が後を引き継ぎ完成させた。
原子爆弾の恐怖をノコギリを使った奇妙な音色で表現したのは
早坂か佐藤か判らないが、とにかく音楽もクロサワ映画らしく無く思える。
此処で早坂文雄のバイオグラフィーを紹介したい。
彼は子供の頃、家が没落し父は出奔して母は病死。
残された彼は弟と妹の面倒を見るため
中学校までしか教育を受けていない。
それなのに、どうして15歳で作曲家を志し、ピアノが弾けたのかは謎だが
彼はエリック・サティの”3つのグノシェンヌ”を日本で初演している。
そして次々とピアノ曲や管弦楽曲を作曲。
それらが認められて様々な作曲家協会に誘われ上京。
彼の作風は”汎東洋主義”というべき日本や東洋の美学を
雅楽や伝統音楽から引き出した様式美であった。
それらは、大映では溝口健二監督の「雨月物語」「山椒大夫」に反映され
その前に大映時代のクロサワに出会い「羅生門」
そして東宝に移ったクロサワと「生きる」「七人の侍」が生まれた。
映像と音楽に長けた此の二人の天才が日本映画のレベルを
著しく向上させたと言っても言い過ぎでは無いだろう。
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