2017年6月3日土曜日

前略おふくろ様
いまBSで此れを再放送している。
観ていると、例えようも無いほど切なくなる。
ショーケンこと萩原健一演じる
”サブ”の無垢な演技に今でも胸が熱くなる。
調べたら、此れは「傷だらけの天使」の直後に制作されている。
先の「傷だらけ・・・」も斬新な話の展開に
映画畑から来た若い監督たちの演出で楽しめたが
此の「前略・・・」ほど引き込まれなかった。
毎回、故郷の母親に”前略おふくろ様・・・”と手紙を書く
イントロのドラマのスタイルは、以降
倉本ドラマの定番になったが此れほど巧く行った作品は無い。
先日、再放映された8回目は
その母親が田舎から突然上京するという話だ。
実は彼女は故郷でサブの兄たちのタライ回しに
嫌気がさし、高齢にもかかわらず
ホテルに住み込みの賄い婦として就職したのだが
既にボケが始まっており、そのホテルから
兄たちに何とか彼女に辞めてもらえないかと。
それで兄たちの企みでサブが今、病気になったので
東京へ看病に行ってくれと
ホテルを辞めさせたという事なのだ。

此の母子の久しぶりの再会の場面が素晴らしい。
疲れて寝ている母親の髪をそっと触るサブに
目を覚ました母親が寝たままで「オッス!」と。
それに息子も言いようがなくて「オッス!」
此のやりとりだけで母子の想いすべてを感じさせる脚本。
役者に合わせたアテ書きとは言え
それを此れほど自然に演じられる俳優は
田中絹代と萩原健一以外に当時居なかっただろう。
「オニオン・グラタン・スープというものを
一度食べてみたい!」という母親に
サブが連れて行ったレストランでのやりとりは
何とも微笑ましく、そして哀しい。
戦後の大変な時代に、子供たちを育てた
自分の親たちの姿が重なる。
此の撮影時かなりの高齢だった筈の田中絹代という女優の
演技の完璧さ、いや演技には余裕すら感じさせる。
新藤兼人の小説を市川崑が映画化した
吉永小百合主演の「映画女優」に
田中絹代の演技の凄さは描かれて居なかった。
比べては悪いが今、高視聴率だという
昼帯ドラ「やすらぎの里」の元・大女優たちが
セリフを覚えられなくて、”カンペ”でズルしているのが
見え見えの編集&演出のレベルに
脚本・倉本聰は満足しているのだろうか?
時代が変われば制作のテンポも変わる。
昔のような丁寧なTVドラマの制作現場とは違う
と言えば、それまでだが・・・。
全てが”嘘”のTVドラマに
”ホンモノ”を追求していた此の時代のスタッフ。
そして輝いて俳優たち、先の萩原健一、桃井かおり、梅宮辰夫
そして今は亡き、室田日出男、川谷拓三、坂口良子、北林谷栄・・・
彼らに出会えると云う以上に、此のドラマは貴重だ。




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