2016年6月9日木曜日

寒い国から帰って来たスパイ (1965)
ジョン・ル・カレのベストセラー小説を
”赤狩り”で一時ハリウッドから干されていた
マーチン・リットが自ら制作・監督した。
NHKの「新・映像の世紀」でも米ソの冷戦時代を
取り上げていたが、此れは
当時の苛烈なスパイ合戦の様子を描いたもの。
リチャード・バートン演ずる主人公は
家族も持たない一途な西側のスパイ。
それが本国に戻り、受けた特命は
職を離れアル中になり落ちぶれたフリをする事。
生活もギリギリで、安い給料の図書館に
やっと就職するが
そこで職場の若い娘と恋に落ちる。
しかし此れはスパイとして、有ってはならないミス
後で、ややこしく成るのだが・・・。
此の娘をチャップリンの「ライムライト」の盲目の娘役
クレア・ブルームが健気(けなげ)に演じる。

落ちぶれた諜報部員の”エサ”に、計画通り東側が
西側の情報を金で買いたいと食いついて来る。
何度か彼は試されて、彼は東ベルリンまで運ばれ
東側のボスの側近に彼は”お前のボスは
西側のスパイだ”という証拠をさりげなく教える。
それが本来、今回の彼の役目だったのだ。

その側近の役を「突然炎のごとく」の
オスカー・ウェルナーが若々しく演じている。
告発されたボスの役はペーター・ヴァン・アイク
此の頃のドイツ将校役は全部、此の役者が引き受けていたが
彼は元ナチス、側近はユダヤ系と判り易い構図。
此処から少しネタバレ
結局、ボスの裏切り者かどうかの裁判が行われるが
英国から連れて来た図書館の娘まで使う
ボスの周到な証拠固めで、主人公の目論みは見破られ
逆に側近の方が粛正されてしまう。
此のドンデン返しには、観客もまんまと騙される。
西側のスパイと判ったら
主人公も当然、処刑される筈だが
そのボスが実は、本当に西側に寝返ったスパイで
側近が掴んだボスの疑惑を晴らす為
東側が仕組んだ芝居だったのだ。
だから、主人公はボスに依って娘と西側へ逃される。
此の頃、まだベルリンの壁は存在していたから
映画のそれは、オープンセットや東欧のロケだと思うが
リアルな映像が夜の逃避行のサスペンスを盛り上げ
観る者は可成りの緊張を強いられる。
此れは余談だが
私はベルリンの壁の崩壊直前に一度、夜こっそり
ロケでベルリンの東側へ連れて行ってもらった。
既に現地で壁は事実上無いにも等かったのだ。
それでも車のヘッドライトに照らされた
アチラ側の家の壁の銃痕に、私は生きた心地はしなかった。
やっぱりラストは教えられないが
此の映画が作られた当時は”壁の悲劇”の真っただ中
社会派監督マーチン・リットは
流石にハッピー・エンドにしていない。
娯楽映画の007ジェームス・ボンドと違う
現実のスパイは陰謀の渦巻く世界で
悲惨な末路が待っている事をモノクロの映像で
見事に再現した歴史的な作品だ。

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