長編アニメ「チコとリタ」(2010)
そんなワケで、やっと観れた此の作品
想像以上に完成度の高い出来だった。
監督のフェルナンド・トルエバはスペインの映画界では
数々の賞に輝いた実力派。
ハビエル・マリスカルはデザイン界では有名な
イラストレーター。
此の2人がタッグを組んで同じスペイン語圏内の
キューバを舞台に、ピアニストとシンガーの
儚く切ない恋を長編アニメーション映画にした。
まず私の興味はマリスカルの洗練された線と色彩。
1940年代キューバの首都ハバナの賑わいを
作画マリスカルが独特のタッチで事細かく描写すれば
当時のラテン音楽を、あの映画”ブエナ・ビスタ・・・”以上の
ミュージシャンを集めてサウンド・トラックとした
監督フェルナンドの凝り様は
スゥーデンに亡命していたキューバン・ピアニスト
ベボ・バルデスを迎えた処に此の映画の成功の鍵が有る。
主人公”チコ”のピアノ・ソロは、ベボが全部演奏したらしい。
ご存知の様にキューバ革命以前は
米国ニューヨークとハバナはジャズメンの交流が盛んに行われ
”ビバップ”と呼ばれる当時のモダン・ジャズ形式に
キューバのコンガ奏者チャノ・ポゾ等が大活躍していた。
偶然出会った無名のピアニストのチコと歌手リタは
激しい恋に落ち、一緒に作った曲がヒットし
それが米国のプロデューサーの目に留まる。
っしかし若い2人は諍いし、リタだけがニューヨークへ。
それを追ってチコも・・・。
常夏のハバナと雪のニューヨークの対比が
物語の背景として大西洋の距離を感じさせる。
そしてチコは同郷のコンガ奏者チャノ・ポゾと出会うが
その矢先、彼は目の前で、あっけなく殺されてしまう。
此の辺りは本当の事件を盛り込んでいる。
本当と言えば彼がセッションをするディジー・ガレスビーに
セロニアス・モンク、チャーリー・パーカーと
アニメながらモダン・ジャズの最盛期を感じさせる
ミュージシャンが続々ドラマに登場するのが嬉しい。
再会したチコとリタは、お互いの誤解を埋めるべく
再び結ばれ、ラスベガスで結婚する筈だった2人を
彼女のプロデューサーが嫉妬し、チコに罠をかけ
身に覚えのない麻薬不法所持で
チコはキューバに送還されてしまう。
そして歳月は流れ
今はハバナの靴磨きにまで落ちぶれたチコ。
此れは”ブエナ・ビスタ”のイブラム・フェレールの
実話エピソードと重なる。
そこに「貴方のレコード全部持ってます」と云う若い歌手が現れ
彼女が彼の作った昔の曲を歌った事から
再び彼はピアニストとして世界の舞台に返り咲く。
しかし今でもリタを忘れられない彼は
約束の地ラスベガスで家政婦をしているリタを探し出す。
すでに皺だらけになっていたリタを
「綺麗だよ・・・」とチコ。
「ずっと貴方を待っていた」とリタ。
人生の深みを感じさせる、ほろ苦いラストに落涙。
DVDのメイキングを観ると全て監督フェルナンドが実写で撮り
それをガイドに作画マリスカルがアナログの線と色彩に
置き換えると言う気の遠く成る作業。
だから感覚的に映像、音楽と、全てが新しいのに
何故か懐かしく心温まる此の作品
私の大事な宝物の1つになった。
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