ポアロ最期の事件・カーテン
とうとう此のシリーズが終わってしまった。
原作のアガサ・クリスティも此の作品は
自分が死んだ後に発表してくれと
書き残したらしいが
此のTV作品もポアロが死んでから遺言で
事件の真相が明かされると云う仕掛けになっている。
話は彼の下僕であり親友のヘイスティング大尉を
彼が自分の療養先のホテルへ呼び寄せる処から始まる。
どちらも年老いて片やポアロは車椅子
TVシリーズ25年間の重みを感じさせる。
物語はポアロが此の場所で起きた殺人事件に
また新たな殺人が加わる事を予感して
旧友ヘイスティングを呼び寄せた処から始まる。
<此処からネタバレ>
そして殺人事件は起きる、それも3つ
いや、もっと先から起きていた殺人
その総てに共通しているのは
それを誘導していた、ある男の存在。
当人こそ手を下さないが
あのシェークスピアの”オセロ”に登場する
邪悪なイアーゴの如く、言葉巧みに相手に近づき
心に潜む憎悪を煽って殺人に導き
それを自分の”快楽”としていたのだ。
それにに気付いたポアロは此れまでの自分の信条
”どんな正義も殺人を正当化するには値しない”を破って
激しい嫌悪感から、その男を処刑してしまう。
それも誰にも気付かれぬよう自殺を装って。
しかし、それすら彼の罠と気付いて自分も
患っていた心臓の薬を遠ざけ、自ら命を絶ち
事件の顛末を書いたものを
4ヶ月後にヘイスティングに送り届ける。
こんなポアロの最期を誰が予想したであろうか?
最初と最期に演奏されるショパンの”別れの曲”が哀しい。
TV「オリエント急行殺人事件」ではハリウッドの映画化とは違い
ポアロの信条との葛藤に重点を置き、完成度の高い作品と成った。
そう探偵ポアロは、いつも”法の番人”の筈
それを最終回で自ら破ると云う途方も無い
アガサ・クリスティの思い切りが凄い!
「刑事コロンボ」でも故ピーター・フォークは
自分の脚本で、刑事としての信念を破る作品を作り
憧れのフェイ・ダナウェイにエミー賞をもたらした。
「名探偵シャーロック・ホームズ」は
主役のジェレミー・ブレッドが役そのままに
躁鬱症になり狂う様に死んでしまった。
ポアロのデヴィッド・スーシェは、まだ元気だから
「ポアロ最初の事件」などを”カーテン・コール”したいが
新シリーズを作るには高齢過ぎて無理だろう。
それにしても此のTVシリーズのスタッフ
カメラ、照明、美術などの緻密な映像作りは
いつもながら溜息が出るほど素晴らしい。
その時代の香りが画面の隅々まで漂う。
さながら当時の英国へ、タイム・スリップした気分。
熟されたワインを味わう様に
録った数々のポアロ・コレクションをいつか観てみたい。
いや私もボケはじめてているから犯人を忘れ
また夢中になれるだろう。
大好きなアート・デコ風なタイトルを動画でオマケ。


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