必死剣 鳥刺し
藤沢周平・小説の映画化は此のごろブームで何本も作られていて
山田洋次も三部作として「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」「武士の一分」を
作ったが、此の作品は、それらを越える最高の出来だと思う。
まず、短編である原作を見事に再構築したシナリオが良い。
映画の冒頭、主人公・豊川悦司が、いきなり城主の側室を刺し殺す場面に
驚かせられる。
どうして、彼が、そう云う行動を取ったかと興味を引き、
その後の彼の処分が、打ち首にも切腹にもならないのは何故かと
回想シーンに戻ってゆく巧みな構成。
豊川悦司も、いつものニヤケた役とは違い狂気を孕ませて不気味。
こんなにチョンマゲが似合う役者とは思わなかった。
こんなにチョンマゲが似合う役者とは思わなかった。
結局、その側室は愚君を誑かして散財し、藩の財政を圧迫していたのを
彼が義憤にかられ、藩の為に処分したという事が徐々に判る。
側室を殺された藩主が主人公を再び自分の護衛役・物頭と側に置くのは
何故だろうと最後まで謎として引っ張って行くのも巧い。
それを仕掛けたのは中老役・岸辺一徳。
彼が良い!元タイガースの”サリー”が老けて化けた。
若い頃はセリフも1本調子で下手だ下手だと思っていたが
テレビの「相棒」シリーズの官房長役辺りから独特な風貌を生かした
ひと癖も、ふた癖も有る玉虫色の芝居が出来る俳優に成った。
この映画でも主人公を忠義心を理解し、藩の安泰を望む
良い上役と思わせて実は・・・(ネタバレ注意)
このサイトの“Stardust Memories=星屑たちの記憶”にも登場した
山形勲、三島雅夫、三国連太郎と、こんな役をしていた名優が
どんどん消えて行くが、この映画の岸辺一徳は遂に彼らと肩を並べた。
この映画の成功は岸部一徳の演技に依ると云っても良いだろう。
そして、もう一人、愚君の従弟役の吉川晃司が意外にハマッた。
その体格と鋭い目つきを生かした侍ぶりは
とても”モニカ”を歌うロック歌手とは信じられない。
とても”モニカ”を歌うロック歌手とは信じられない。
終盤の豊川と互角に張り合う対決に息も詰る緊張感を生んだ。
体格と云えば豊川悦司の身体は剣の名手にしては
なんとも弛んでいて頼りないが、それも狙いなのだろうか?
その彼の面倒をみる姪役の池脇千鶴が健気で良い。
藤沢周平小説には必ず登場する日本女性の理想の姿なのだが
亡くなった姉の代わりに献身的に主人公に尽くすのが似合う。
もう一つ、藤沢周平の世界の主役は何と云っても情景描写。
彼の描く、海坂藩の春夏秋冬、花鳥風月は小説というより
俳句、短歌の様に余韻を含ませ、映像作家を刺激するものだが
この映画は正にそれを描く事に神経を尖らせたかの様に
どの場面でも美しい光と影の風景を叙情的に捉えている。
そうかと思えばラストの大立ち回りには大雨を降らせ
血みどろの戦いは凄惨そのもの。
恐らく過酷な労力と膨大な時間をかけて撮ったに違いない。
そのキャストとスタッフを讃えたい。
”必死剣 鳥刺し”とは、どんなものか?ラストに明かされるが
それがカタルシスとなって見終わって実に後味が良い。
映画の何たるかを心得たエンディングだ。
”必死剣 鳥刺し”とは、どんなものか?ラストに明かされるが
それがカタルシスとなって見終わって実に後味が良い。
映画の何たるかを心得たエンディングだ。
此の監督・平山秀幸は「愛を乞うひと」「やじきた道中・てれすこ」等
を撮ったらしいが、申し訳ないが私は観ていない。
此の作品の見事な演出力に、彼の此れまでの全作品を観たく成った。
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