2013年5月6日月曜日

必死剣 鳥刺し
藤沢周平・小説の映画化は此のごろブームで何本も作られていて
山田洋次も三部作として「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」「武士の一分」を
作ったが、此の作品は、それらを越える最高の出来だと思う。
まず、短編である原作を見事に再構築したシナリオが良い。
映画の冒頭、主人公・豊川悦司が、いきなり城主の側室を刺し殺す場面に
驚かせられる。
どうして、彼が、そう云う行動を取ったかと興味を引き、
その後の彼の処分が、打ち首にも切腹にもならないのは何故かと
回想シーンに戻ってゆく巧みな構成。
豊川悦司も、いつものニヤケた役とは違い狂気を孕ませて不気味。
こんなにチョンマゲが似合う役者とは思わなかった。
結局、その側室は愚君を誑かして散財し、藩の財政を圧迫していたのを
彼が義憤にかられ、藩の為に処分したという事が徐々に判る。
側室を殺された藩主が主人公を再び自分の護衛役・物頭と側に置くのは
何故だろうと最後まで謎として引っ張って行くのも巧い。
それを仕掛けたのは中老役・岸辺一徳。
彼が良い!元タイガースの”サリー”が老けて化けた。
若い頃はセリフも1本調子で下手だ下手だと思っていたが
テレビの「相棒」シリーズの官房長役辺りから独特な風貌を生かした
ひと癖も、ふた癖も有る玉虫色の芝居が出来る俳優に成った。
この映画でも主人公を忠義心を理解し、藩の安泰を望む
良い上役と思わせて実は・・・(ネタバレ注意)
このサイトの“Stardust Memories=星屑たちの記憶”にも登場した
山形勲、三島雅夫、三国連太郎と、こんな役をしていた名優が
どんどん消えて行くが、この映画の岸辺一徳は遂に彼らと肩を並べた。
この映画の成功は岸部一徳の演技に依ると云っても良いだろう。
そして、もう一人、愚君の従弟役の吉川晃司が意外にハマッた。
その体格と鋭い目つきを生かした侍ぶりは
とても”モニカ”を歌うロック歌手とは信じられない。
終盤の豊川と互角に張り合う対決に息も詰る緊張感を生んだ。
体格と云えば豊川悦司の身体は剣の名手にしては
なんとも弛んでいて頼りないが、それも狙いなのだろうか?
その彼の面倒をみる姪役の池脇千鶴が健気で良い。
藤沢周平小説には必ず登場する日本女性の理想の姿なのだが
亡くなった姉の代わりに献身的に主人公に尽くすのが似合う。
もう一つ、藤沢周平の世界の主役は何と云っても情景描写。
彼の描く、海坂藩の春夏秋冬、花鳥風月は小説というより
俳句、短歌の様に余韻を含ませ、映像作家を刺激するものだが
この映画は正にそれを描く事に神経を尖らせたかの様に
どの場面でも美しい光と影の風景を叙情的に捉えている。
そうかと思えばラストの大立ち回りには大雨を降らせ
血みどろの戦いは凄惨そのもの。
恐らく過酷な労力と膨大な時間をかけて撮ったに違いない。
そのキャストとスタッフを讃えたい。
”必死剣 鳥刺し”とは、どんなものか?ラストに明かされるが
それがカタルシスとなって見終わって実に後味が良い。
映画の何たるかを心得たエンディングだ。
此の監督・平山秀幸は「愛を乞うひと」「やじきた道中・てれすこ」等
を撮ったらしいが、申し訳ないが私は観ていない。
此の作品の見事な演出力に、彼の此れまでの全作品を観たく成った。





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