2012年9月27日木曜日


ダンケルク(Week-end à Zuydcoote)

当時、日本では圧倒的にアラン・ドロンの人気が上だったが
フランスではジャン・ポール・ベルモンドの方がギャラでも上だったという。
その彼が主演した映画3本を上げろと云われれば
私は「勝手にしやがれ」「ラ・スクムーン」と此れを入れる。
そんなに何度も観た訳では無いが印象が強くてDVDで欲しかったが
なかなか手に入らなかった。
先日BSでやったのを、やっとDVDに焼きながら観た。
邦題では「ダンケルク」だが仏題では「ジュイコットの週末」
第二次世界大戦が始まって間も無い頃
ドイツ軍が北部フランスのダンケルクに攻め込んで
劣勢のフランスとイギリス軍が撤退を余儀なくされた
戦史の映画化だ。
改めて観ても冒頭から驚かされるのは、そのスケールの大きさ。
画面の遥か彼方まで軍の戦車や兵士達が合成でなく動いている。
アメリカ映画「地上最大の作戦」よりコチラのが凄いのでは無いか?
此れを見事に画面に収めているのが
フランス映画の名キャメラマン、アンリ・ドカエ。
「死刑台のエレベーター」から「太陽がいっぱい」「サムライ」と
その作品群の映像美には、どれも溜息が出るほど。
しかし此の映画では戦場というものが、どういうものかの
リアリズムを追求して正にその場に居る様な恐怖を感じさせる。
しかし監督アンリ・ベルヌイユは、その恐怖感とは裏腹の
日常的な兵隊たちの生活を丁寧に描いている。
それと云うのも出演している俳優達は他の映画では
酒場のマスターで有ったり、肉屋の親父やギャングと
フランス映画では馴染みの名脇役ばかりなのだ。
それぞれの俳優歴を生かした台詞はウィットにとんでいて
彼らがヘルメットに軍服を着ているのが、無理矢理

戦争に駆り出された彼らの運命を感じさせて切ない。

主役のベルモンドだが、
彼の演技は出演した全作品ほとんど変わらない。
あの決して美男とは云えない間の抜けた表情で
時にユーモアを交え、淡々と生き抜くスタイルは
他の俳優には真似の出来ないキャラクターだ。
だから、脚本が悪いと作品は面白く無くなる。
それが此の映画では見事にハマった。
悲惨な現状を自然に受け止め、何とか生き残ろうと
黙々と行動する姿は虚無的ですらある。
イギリス軍の船に乗せてもらい脱出出来そうになるが
ドイツ軍の空爆で船が炎上、地獄と化した状況でも
冷静さと優しさは失わない。
戦地に残って家を守っている娘(カトリーヌ・スパーク)を
強姦しようとした味方の兵士を撃ち殺した時も
後悔の念に駆られる、ごく普通の人間性を持っているのだ。
どの場面も砲弾が飛び交い、戦闘機が空爆と機銃掃射を繰り返し
心の通い合った仲間が次々と死んで行く・・・
それが戦争だと此の作品は今も変わらぬ現実を訴える。

軍隊が崩壊し、彼は、もう兵隊は御免だと娘と逃げようとして
待ち合わせた浜辺のトレーラーに爆弾が落ち被爆する。
その仰向けに成った目に逆さに映る娘の姿で映画は終わる。
何とも哀しいラストシーン。
「アラビアのロレンス」「日曜日に鼠を殺せ」「コレクター」と
此の頃、絶好調だったモーリス・ジャールの音楽が素晴らしい。

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