此の監督は京都大映撮影所の生え抜き。
大映黄金時代に溝口健二や森一生等の巨匠に育てられ
座頭市、眠狂四郎シリーズの3番手4番手として活躍し
大映が倒産した後はTVに進出して地味ながらも撮り続け
藤沢周平シリーズや此の鬼平シリーズの終わりの頃には
既に80歳の高齢であったが此の様な記憶に残る作品を幾つか残した。
そして此れは鬼平としては最終章とある様に鬼平と言うより
監督・井上昭の最期の作品。
映画の神様、マキノ雅弘に寄れば
”映画は1筋2抜け3役者”の通り、
1筋の脚本は向田邦子賞の金子成人。
池波正太郎の原作通りかもしれないが緻密に構成された展開は
男と女の情愛を丁寧に描き最後まで観るものを惹きつける。
2抜けの映像はカメラマン南野保彦。
江戸の昔の四季は、かくもそうであったかの様に
暑さ寒さに雨に雷と見事に再現させている。
そして3役者だが
先ずは主役を演じた片岡愛之助、彼は関西歌舞伎役者。
ニヤけた文字通りの二枚目、実生活でも藤原紀香を女房にしているが
此の物語では、大工の仕事ぶりに性格も良くて独り者だから嫁を世話したいと、周りには見えるが、実は盗賊の一味で”先乗り”として
大工に化け、大きな商家の修理をするフリで
盗賊の押し込み口を作る先乗り役。
行く先々で周りから勧められるままカモフラージュに嫁を娶り
周りが羨むほど仲良い夫婦として暮らしていた。
しかし押し込みの前には姿を消すのが盗賊の掟。
彼は四度目の女房が寝ている間に
"嫌いで去るんじゃない”と書き残して消える。
それを信じた四度目の女房は何も知らず、
ひたすら夫の帰りを待ち続ける尽くすだけの女だった。
夫に去られた後、生活のため酌婦に成り、
遂には客の囲いもの(妾)に成りはてても
身体は売っても心は売らないと。
彼女の美しさに商いが傾くほど入れ込む小間物屋の旦那を
怪優・本田博太郎が演じ、そのイジらしさを切なくみせる。
そして後でわかるのだが、盗賊の仲間で先乗りの男が
偶然、彼女の長屋の向かいに住み、彼女の身体を狙う。
ナメクジみたいに気持ち悪いと彼女に言われる此の男を
正名僕蔵が怪しく演じてキャスティングは万全。
万全といえばヒロインの四度目の女房が可哀想だと
面倒をみている婆さんが、なんと山本山の山本陽子。
日本橋本店の入口の看板とは似ても似つかぬ老け様は流石の大女優。
さて”映画は1筋2抜け3役者”が全部揃った此の映画、
面白くない訳が無い!
主人公は仕事先の別の土地で五番目の女房を貰ったものの
どうしても主人公は四度目の女房の良さが忘れられず
ついに掟を破り、江戸に戻ってしまう・・・。
ねえ観たいでしょう此の映画。
TVには珍しい真っ暗な画面に、主人公が担ぐ大工道箱の立てる音が町内に響き、その音で女房が亭主の帰りに気付く導入部分は池波正太郎の原作か?それとも金子成人のアイディアか?何方にしても素晴らしい!、歌舞伎でも似た様な町人役を演じているであろう片岡愛之助の稲瀬(いなせ)な動きが光る。
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