今、戦争を始めたロシアのトルストイ原作の此の映画化を観るのは
何の意味があるのだろうか?と自問自答しながら
3時間半の超大作を一気に観てしまった・・・というのも
ヒロイン”ナターシャ”を演じたオードリー・ヘプバーンの可憐な魅力に惹かれ
イタリアの2大プロデューサー、カルロ・ポンティとディノ・デ・ラウンティスに米国パナマウントの巨大製作費。
C.G.がない時代、画面の隅々までエキストラを埋め尽くしたフランス兵とロシア兵の合戦画面に、ただただ圧倒され続けた。
そう此れは70mmスペクタクル映画全盛の映画界に元気があった時代の作品だ。
オードリーは「ローマの休日」でブレイクし
「麗しのサブリナ」と「パリの恋人」の間、名実ともに絶頂期の美しさ。
その無垢なロシア貴族の娘ナターシャが恋をし
それがフランスとロシアの戦争に振り回され女性として人間として成長していく姿を原作トルストイは描いた。
オードリーは此の作品で相手役のメル・ファーラーと結婚している。
役の上で女たらし将校に誘惑され、婚約したメル・ファーラーを裏切る事で
更に彼女の想いが屈折してメルに増したのだろうか?
私はヘンリー・フォンダが演じるピエール役の方が誠実で、彼女にふさわしく感じたが、ヘンリーの役は先にアニタ・エクバーグ演じるエレンという肉感的な女性を妻にしてしまう。
果たして彼女は財産目当てで不義密通を働くとんでもない女であったのだが。
此の時のアニタ・エクバーグは、後のフェリーニ映画のグラマーと違い、元ミス・スウェーデンだけにスリムでその美貌は流石のオードリーも負ける。
此の映画には、もう一人ユニークな俳優が出ている。
後にピーター・セラーズの「ピンクパンサー」のクルーゾー警部の上役ドレフェスのハーバート・ロムだ。
外国版”怪優列伝”に入れたいくらい危ない役者だが、狂気に満ちたナポレオンを見事に演じて実際、絵画で見るナポレオン、そのままの風貌だ。
それにしても前半のモスクワの街のオープンセットの凄さ、後半の大部分を占めるロシアとフランスの戦闘場面は実際に1万8000人のイタリア軍兵士を雇い、当時の軍服を着せて、高地からスペクタクルなアングルで捉えた映像は流石のアカデミー撮影賞ノミネート・カメラマンのジャック・セットカーディフ。
重厚な音楽はイタリアが誇るマエストロ作曲家ニーノ・ロータ。
後のヴィスコンティ監督の「山猫」とスコアが似てる。
まあ、ディテールを話すとキリがないから、この辺で止めるが。
トルストイが書いた原作は、戦場で大勢の兵士が殺しあう現場を目の当たりに観た民間人ヘンリー・フォンダが、一時は
ナポレオン憎しと、暗殺を試みるが、いざ彼の拳銃の照準にナポレオンが入ると、それは愚かな事と取りやめ、つまり戦争は意味のない事だと悟る。
更に敗退するロシア軍に彼は捕虜として連行され極寒の荒地を国境まで深い雪の中の死の行進で、その悲惨さは強調される。
映画は長い長い回り道をしたオードリーとヘンリー・フォンダが、観客が望む様にラストは結ばれて終わる。
”戦争と平和”が、ほんの僅かな人間の狂気に左右されてしまう事を此の映画は教えている。
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