2016年9月15日木曜日

「カンポンのガキ大将」:ラット作
此の本は浅草のウチの近くの内科医院の待合室に置いてあった。
待ち時間に読み切れなくて、先生に頼んで貸してもらった。
”カンポン”とはマレーシア語で田舎の事
そこに生まれた少年が、近所の子供と遊び、育って行く日常が
独特の筆使いで見事に描かれている。
コマ割りしていないから漫画のスタイルでも無く
どちらかと云えば1枚の絵コンテに近い。
白黒の自由な線で描かれた場面に
最小限の文章が付いただけだが
それでも充分、その世界は伝わる。
マレーシアと日本は文化も宗教も違うから
ゴムの栽培畑や高床式の生活に、
初めて知るイスラムの割礼習慣等とても興味深い。
それでも何処か共感するのは、我々と同じアジアの空気感だろう。
ラストに村を離れ、都会の寄宿舎へ
バスで旅立つ主人公の少年の切ない気持ちが丁寧に描かれ、
自分が地方都市から出て来た時の想いと重なり
当時、思わず涙した記憶が有る。
此のラットという作家が気になり、銀座の輸入本屋で探したら
マレーシアでは当時、人気作家だったらしく
「タウン・ボーイ」という続編も出ていた。
それは又、少年から思春期になった主人公が
都会暮らしでレコードでプレスリーを聴き、憧れ
年頃らしく可愛い女の子に恋をして、一緒に映画館へ行き
ワイズミューラーの「ターザン」を観て
そのあと見事にフラれ
まるで「ニュー・シネマ・パラダイス」(完全版)の様。
でも此の本の方が、ずっと先だったが・・・。
そして仲の良かった友達との駅のプラットホームでの別れは
前作以上に泣かせた。
それは漫画でも劇画でもなく完成された映画の様な
ラットの世界。
でもそれは、かれこれ30年以上も前の事
此の本を快く貸してくれた、お医者さんも当時は元気だったが
何年か前に亡くなった。
出会いと別れは、人生につきもの
でもサヨナラは、いつも寂しい。

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