小さな巨人 (1970) :監督アーサー・ペン
アメリカン・ニューシネマの代表作の1つとして
「俺たちに明日はない」が在るが
その監督アーサー・ペンが、その3年後に作った
此の映画は前作を上回る大作であり傑作である。
米国の先住民インディアン大虐殺の歴史を
当時、泥沼化していたベトナム戦争に重ね
ダスティン・ホフマン演じる白人男の”数奇な運命”
と云うには余りにも”悲惨な人生”をシニカルに
時にユーモアを交えて描いて行く。
此の展開は「フォレスト・ガンプ」や
「ガープの世界」に連なる世界、もしくは
「まぼろしの市街戦」や「ブリキの太鼓」のそれ。
主人公に次から次へと不運と不幸が襲いかかる。
人間は悲し過ぎると涙より、あきれて笑うしか無いのだ。
映画は歴史評論家の
121歳の老人へのインタビューから始まる。
(此のダスティン・ホフマン特殊メイクが巧い!)
その老人が語り出したのは生い立ちから。
西部開拓時代、家族が凶暴なインディアンに襲われ
少年の自分と、その姉だけが生き残り
別の平和的なシャイアン族に拾われるが
姉は逃げてしまい、彼だけが養子として育てられる。
此の少年が大きく成って、いや大きく成らず
”リトル・ビッグマン=小さな巨人”と云う名で呼ばれる。
(確かにダスティンは背が低く此の役に打ってつけだ)
最近の彼は、芝居が臭さ過ぎて鼻につくが
此の時はアーサー・ペンの演出が良いのか
波瀾万丈の重い内容を、飄々と演じて素晴らしい。
映画の中では望まぬのに先住民族と白人社会を
行ったり来たりと何度も往復、彼の運命は翻弄される。
白人社会ではフェイ・ダナウェイ扮する聖職者の妻に誘惑され
マーチン・バルサムのペテン師の相棒となり
生き別れた姉に再会、早撃ちの才能を見いだされガンマンに。
しかしワイルド・ビル・ヒッコックの射殺現場を見て
人殺しが嫌になり、堅気の生活を求め
スウェーデン人の妻と雑貨商を始めるが
又しても、その妻がインディアンに拉致され
その妻を捜すため、有名なカスター将軍の斥候となる。
しかし殺戮に明け暮れる、その軍隊に愛想をつかし
インディアンの若い妊婦を助けてシャイアン族へ逆戻り。
其処には幼い頃、彼を息子として育ててくれた
シャイアンの長老が待っていた。
此の長老役チーフダン・ジョージは坂上二郎似で
ジョン・フォード西部劇の常連だが
”今日は死ぬには良い日だ”の名セリフを残し
さもインディアンらしい最期で死ぬかと思いきや
肩すかしを食わせる辺りが此の映画の面白さ。
先のフェイ・ダナウェイも、後に見せ場が仕掛けてあり
「俺たちに・・・」以上の色気で迫って来る。
色気と言えば新しく迎えたシャイアンの妻には
白人に夫を殺された2人の姉が居て、その相手も
ダスティンがするのが可笑しい。
しかし、カスター将軍の騎兵隊に部族は襲われ
その姉妹も総て虐殺される。
そのカスター将軍に人間の愚かさを象徴させ
強烈に当時のアメリカ政府の暴走を批判している。
エピソードに、様々な寓話を散りばめ
それを教訓として生き残ってゆく主人公に哲学が生まれる。
その想像を絶する物語は監督アーサー・ペンが
盛り合わせた和洋中3段重ね豪華弁当
いや5つ星レストランのフルコースの様。
彼の才能を認め、黒澤明が幻の「トラ・トラ・トラ」の
共同監督候補にアーサー・ペンをオファーしていたのが良く解る。
最期に、雨で鳥葬に失敗したシャイアンの長老が
”思う通りに行かないのが人生だ”と話すのが効いている。
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