2015年4月12日日曜日

TVドラマ「張り込み」
松本清張の推理小説は今なお人気が有り
10年ぐらいの周期でTVドラマ化されるが
発表された当時と現在では
モラル価値観に時代背景も違うので
そのまま使うと可成り無理を生じる。
去年あたり「坂道の家」のTVドラマ化があったが
原作のキャバレーの浮気女に貢ぐ中年男の純情を
女の職業を美容師に変えても現代にはそぐわなかった。
だから此の「張り込み」も、私は余り期待しなかったのだが
今回は大幅に脚色され意外に良い作品と成っていた。

昭和の名作とされる野村芳太郎と山田洋次が脚色した
映画「張り込み」でヒロイン(高峰秀子)は
原作通り、金融業の男(清水将夫)の後妻として嫁ぎ
その女と、かつて恋仲だった強盗殺人犯の
男を追って張り込みをしている刑事の目には
その強欲な夫に従順な哀れな人妻と映っていた。
しかし今回のドラマ化では、その夫が
3人の子持ちの人の良い男(塩見三省)に変更され
此れがヒロインの心の揺れを描くのに、とても効果的だった。
裏切る夫が酷い奴で無い分、余計に辛い筈だから。
ヒロインの昔の恋人に逢いたいという気持ちと
今の良い家庭を護ろうとする気持ちとが、ギリギリに相克し
若村麻由美の好演もあり、心の揺れの幅が出た。
それと張り込みをする若い刑事役(小泉孝太郎)の
瑞々しい演技(巧いとは云っていない)で
彼の純朴さが、反ってヒロインを追いつめる
結末と成る皮肉が今回の脚本の要だ。

調べたら警察は現在、張り込みは刑事2人が原則だが
原作では1人、だから若い刑事が見張っている内に
哀れなヒロインへの儚い想い、うたかたの恋に成って来る
最初の清張原作に、此のTVドラマは戻った訳だ。
先の映画ではヒロインの高峰秀子が得意とした
成瀬巳喜男作品の様な、じっと耐え忍ぶ古いタイプの
女性の演技が見事だったが
今回のTVの若村麻由美は、駄目な男と解りつつ
それでも惹かれる女の未練を現代的に演じ
原作の古さを微塵も感じさせなかった処に
成功の鍵が在った様に思える。
且つ、熟れた人妻の魅力は若村麻由美ならではのもの。

原作は短編小説、誰もが知っている結末に、
新たに肉付けし、人間ドラマに仕立て直した
脚本・西岡琢也の構成力は確か。
監督の星田良子は、同性だけに女の心理描写が流石に巧い。
地方ロケを上手に生かし、風景までもインサート映像として
ドラマチックに編集に盛り込んだスタッフ(撮影に照明)は
相当な粘りと予算をかけたに違いないと、私は観た。

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