「ワイルド・アパッチ」(1972)
この邦題は、西部劇として分かり易いが
原題は「ウルゾナの襲撃」
西部開拓史も終盤、インディアンは居留地区に追いやられ
そこから逃亡したアパッチのリーダーが
”ウルゾナ”という名。
彼はアパッチの戦士として優れ、仲間を引き連れ
次々と開拓者の家を襲い、馬や銃を手に入れてゆく。
彼を捕えるために、砦の騎兵隊の若い将校が派遣される。
その将校役が「いちご白書」のブルース・デイビソン
そして補佐としてベテランのガイドに
名優バート・ランカスター。
彼は18年前「アパッチ」で逆のアパッチの役を
同じ監督ロバート・アルドリッチで演じている。
それは普通の西部劇に終わっていた彼らも
此れが作られたのは”アメリカン・ニュー・シネマ”の真っ只中
キャリアを積んだ、男ざかりのランカスターに
骨太の演出で知られるアルドリッチが力をつけ
此の作品にかけた二人の情熱は、半端ではなかった。
此の映画の構成には3つの対立がある。
まずは、どんどん凶暴化してゆくインディアンに
牧師の息子だったという純粋な若き将校は
成す術もなく混乱し精神錯乱状態。
それを老練なランカスターが対立しながらも
冷静に見守り、導いて行く。
「ベラクルス」「許されざる者」のアクション・スターは
フランケンハイマーの「終身犯」
ヴィスコンティの「山猫」と年を重ねる度に
渋さを増し、名実ともにオスカー俳優の貫禄。
そして2つ目の対立は
此のランカスター対アパッチのリーダーの駆け引き。
絶えず相手の裏を読み、罠を仕掛けて
騎兵隊皆殺しを測り、馬を奪う作戦。
此の両者の戦いはクロサワ映画並みにドラマチック。
そして3つ目の対立は
同じアパッチ部族を裏切り、ランカスターを慕い
”騎兵隊と契約しているから”と律儀なインディアン・ガイド。
彼は、後に族長ウルゾナの最期を見守るのだが
そのアル・パチーノ似のホルヘ・リュークが素晴らしい。
当時は本当のネイティブ・インディアンの俳優が居なかったので
此の二人は、どちらもメキシコ人だ。
それぞれが、此の映画では恐らく生涯に一度という
良く書き込まれたアラン・シャープのシナリオに
アルドリッチの的確な演出に答えた結果だ。
此れらの対立構成の”裏”に監督アルドリッチは、
当時の、時代の空気を潜ませた。
ヴェトナム戦争の泥沼に冷静さを欠いたアメリカ政府。
間違ったリーダー(大統領)の判断が、あの結果を招いたと。
それが此の映画を、私が
”アメリカン・ニュー・シネマ”とする理由だ。
ハリウッドは西部劇で殺したインディアン達に懺悔するように
ジョン・フォードは終盤「シャイアン」など
彼らを悪者とせず、非制圧者として描いた作品も作ったが
此の作品では逆に、獰猛で残虐なインディアンを
彼らとの”文化の差”として登場させていのが、如何にも
「飛べ!フェニックス」「北国の帝王」「ロンゲストヤード」の
”アルドリッチ”らしい。
そして70mmスペクタクル「ソドムとゴモラ」の監督でもある彼は
フルスクリーンで捉えた紅いアリゾナの大峡谷に挟まれて
息を呑むクライマックスの襲撃と反撃が圧巻!
最後のランカスターの此の何とも言えない表情に
名作「明日に向かって撃て」のラスト・シーン以上の余韻が残る。
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