2016年7月10日日曜日

TVドラマ「火車」
此の宮部みゆきのベストセラー「火車」の
ドラマ化は2度目らしいが
録画して置いたものを、やっと観た・・・
というのは主演の上川隆也という役者、私は苦手
「大地の子」以来、演技がストレート過ぎて
人間味が感じられないのだ。
今回は演出が「相棒」を多く手掛けている橋本一(はじめ)
”亀ちゃん”こと寺脇康文の相棒役に
興味を持ち、観る気になった。
それと、もうオンエアは終わってしまったが
宮崎美子のBS-11「すずらん本屋堂」で原作「火車」は
此の20年間の”このミステリーが凄い!”で
堂々の第一位、此れは観ない訳には行かない。
果たして、その内容は?
バブルがはじけて、銀行が貸し渋りを始めた時代の話。
行方不明の婚約者を捜して欲しいと主人公の妻の甥が頼んで来る。
妻を交通事故で亡くし、更に怪我で休職中の主人公は
始め、乗り気で無かったが調べて行くうちに
その婚約者が別の女の名前をかたっていた事で
主人公の刑事魂に火がつく。
しかも、その女はカードローンで自己破産していて
彼女も行方不明。
此の二人の女の接点が、中々掴めない。
まだ”事件”として成立していない此の謎を追い
主人公には怪我で足が不自由なまま
そして、鰥夫(やもめ)で、更に小さな息子持ち
父子家庭というハンデを与えて物語は展開する。
此の役を上川隆也が演じると、なんとも救いが無いが
演出・橋本は「相棒」の”亀ちゃん”を軽妙に絡ませ
画面が多少は緩んだ仕掛けになる。
画面と言えば、全部で2時間以上の長編ドラマだが
小説とは違う、象徴的な炎の映像などを
効果的にインサートし緊張感を持続させる編集が見事だ。
先に同じ宮部みゆき原作の映画化「ソロモンの偽証」が
編集も映像も下手糞だっただけに・・・。
それと消えた二人の女のキャスティングを
田畑智子と佐々木希という対照的なキャラクターに
演じさせ、あの時代が生んだ彼女達の悲惨な運命を
対比させる事で成功している。
田畑智子は普通のOLが、一人暮らしに羽を伸ばし
キャッシュ・カードを使い果たしサラ金からサラ金へで
自己破産、しかし懸命に生きようとしていた。
一方、佐々木希は、親が高額の借金を払えず一家離散。
それでもヤクザの”取り立て屋”は、執拗に彼女を追って来て
やっと掴んだ幸せ(結婚)も壊されてしまう。
捕まった彼女は売られ、体で借金を返えさせられるが
キリが無く、自分の存在を消し他人に成りすます方法を選ぶ。
それも、生まれ変わり易い孤独な女を探し。
自分のすべてを葬った筈の彼女だが
1枚残された写真の”謎めいた瞳”
それは美しくも計り知れない孤独を訴えていた。
此れに主人公・上川隆也は彼女への執着を更に深める。

”借金で火の車”とは、一般的によく使われる言葉だが
「火車」と云うのは仏教用語で、亡者を地獄へ運ぶ車の事。
その車に乗せられた此の2人の不運な女の生き様が
めらめら炎と成って、あの危ない時代を炙り出す。
女ふたり、ただ
「幸せになりたいと思っただけなのに・・・」
の台詞がなんとも哀れ。
ミステリーが当時の社会情勢を告発し
今なお、身近に有る現実問題として
提起した此の文学作品。
映像化され、更に見応えのあるドラマとなった。

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