2016年7月23日土曜日

眠狂四郎 円月斬り (1964)
ご存知、市川雷蔵の当り役シリーズ、此れは其の3作目。
柴田錬三郎原作のアンチ・ヒーロー眠狂四郎は
転び伴天連が日本人の女に生ませた混血児という”陰”と
雷蔵自身の生い立ちから来る”陰”が見事に重なり
先の映画化、東宝の眠狂四郎・鶴田浩二を超えた。
監督は勝新の”座頭市シリーズ”と同じく
田中徳三、三隅研二と大映の中堅が持ち回り
此れは安田公義が担当している。
既に大映の経営が思わしく無い故か?
上のポスターを見れば判る様に主役の雷蔵以外
キャスティングは地味で、此れでは客は入らんだろうと
思うが、それでも当時の大映はレベルが高く
映画の仕上がりは、流石の完成度を保っている。

話は将軍家斉の子ながら粗暴で
名刀マニアの馬鹿息子が家来を連れては夜中に辻斬り。
それも地方の飢饉で、江戸の橋の下に屯する難民を狙って。
此れと間違われた狂四郎が汚名を晴らすべく
本家に乗り込む。
此の馬鹿息子を演じたのが当時の美男スター成田純一郎
しかし馬鹿息子に育てたのは母親
人妻だった彼女を好色な将軍家斉に差し出した夫に
見切りをつけ、家斉の子を産んでから野心を抱き
息子を将軍にすべく次々と家斉の跡継ぎ候補を毒殺
遂には我が息子が将軍に・・・という処まで。
しかし、それに待ったをかける狂四郎。

その馬鹿息子の愛人・小波を、東 京子という
変わった名前の女優が演じている。
彼女は大映の社長・永田雅一にスカウトされたらしいが
なんだかな〜である。
馬鹿息子の妻同然の身で狂四郎に犯され
彼を憎んでいながら、身体は狂四郎を求めて行く
難しい役を、そこそこ演じ切ったのは
監督・安田公義の力か?
そんな訳で、相変わらず原作通り狂四郎は女に強く
絶えず彼の周りには色っぽい相手が絡み付く。
もう一人の女は浜田ゆう子演じる水茶屋の女おきた。
浜田は大映のスター女優の中では圏外だが
妖艶さは、当時大映女優だった若貴兄弟の母親並み
しっかり島送りの夫の留守に狂四郎を銜え込む。
此れら女達との濡れ場に、生臭さを感じさせないのが
雷蔵のクールな魅力だろう。
その女の亭主で島送りの筈の男が伊達三郎
狂四郎を殺そうと執拗に付け狙う不気味な男。
此の俳優も当時の日本映画界の悪役レベルで
トップを行く怖さと巧さ。
それに、改めて紹介したいのが
狂四郎への刺客を演じた植村謙二郎という役者。
当時、既に名脇役として現代劇にも出ていたが
その渋い演技は此の作品でも不運な浪人像を
孤高に膨らませている。
ところで、昔のTVドラマ「図々しい奴」の
丸井太郎という役者を覚えている人は居るだろうか?
彼が辻斬りされた難民の父親の仇を討とうとする役で
此の映画では雷蔵に継ぐ重要な役を演じている。
大部屋俳優だった筈だが、先のTV人気で抜擢されたと思われる。
腹を減らした難民にしては太り過ぎているのが、ご愛嬌。
しかし、その後の彼の役者人生は悲惨だ。
当時の映画界は先の永田雅一の五社協定で専属制度
彼はTVで人気が出たにもかかわらず、役に恵まれず
他社の映画にも出られず、大映に飼い殺しの様な状態で
最後にはガス自殺。
同僚の大辻司郎、田宮二郎と、それぞれ事情は違うが
大映は3人も自殺者を出した訳である。
会社は監督及びスタッフ達の
撮影技術の高さにも関わらず、暗い影を残したまま
その後まもなく倒産したのは、周知の通り。

話は、だいぶ横道にそれたが此の作品
巨大な江戸の芝居小屋のオープンセットといい
ラストの大掛かりな橋の炎上スペクタクルに
脚本も練ってあり、実力のある脇役の好演も有って
まだまだ大映京都撮影所に底力が有った頃だけに
今観ても、相当見応えのある映画と成っている。

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