赤い河 (1948)
ポスターはカラフルだが白黒映画である。
西部劇映画の傑作として、又
フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの監督達に
評価の高い監督ハワード・フォークスの代表作である。
当時の人気スター、ジョン・ウェインが主演ながら
彼には珍しい”ダーク・ヒーロー=悪役”である。
そして善い役は新人のモンゴメリー・クリフトにやらせている。
そんな酷い役を、それまで正義漢しかやらなかった
否、出来なかったジョン・ウェインが何故演じたか?
と言うのは監督ハワード・フォークスの力である。
彼とは此の後も「リオ・ブラボー」「ハタリ!」「エル・ドラド」と
コンビを組んだ事で、天下の大スターが
如何に此の監督を信頼していたかが理解出来る。
ハワード・ホークスは”ボギー”ことハンフリー・ボガードと
それ以前「脱出」「三つ数えろ」とフィルム・ノワールの
傑作を監督している。
その辺りがフランスの若い監督達に影響を与え
フランスに新しい波=ヌーヴェル・ヴァーグが生まれた。
ノワールと云えば此の西部劇、やたら暗い、夜景が多い。
所謂、”アメリカの夜”と呼ばれる昼間に
レンズを絞り込んで夜景に見せる技法は
逆に昼間の青い空や白い雲をハッキリ際立たせ
題名の”赤い河”の色まで観客に想像させる。
カメラのラッセル・ハーマンの確かな技術は
監督ハワードの狙い、人間の愛憎の深みまで際立たせた。
話はカウボーイたち、男の世界。
「お願い連れてって!」と云う女達を
「女にゃ牛追いは無理さ」とつれなく置いて行く男。
自分の牧場を持ちたいと、群れを離れた男ジョン・ウェインが
コックの老カウボーイ、ウオルター・ブレナンと
途中、拾った少年を育てながら
(此の少年がモンゴメリー・クリフトに成る)
開拓した牧場を大きくしたものの、南北戦争に依る
牛の価格の暴落に、もっと高く売れる場所へと
ジョン・ウェインは牛を移動させようとする。
しかし当時の西部は先住民のインディアンの襲撃や
徒党を組んだ強盗など様々な危険が待ち受けていた。
インディアンの襲撃シーンもさることながら
牛の暴走や大河を渡る場面のスペクタクルは迫力充分。
最初のうちは仲良くやっていたカウボーイ達も
長距離の移動に食料が尽き、逃亡者が出て来る。
それはリーダーのジョン・ウェインも長旅で狂いだし
人の心が解らない独裁者へと変貌して行くからだ。
此の難しい役を”大根”と言われたジョン・ウェインが
ハワードの演出のもと、見事に演じている。
他にもカウボーイ達、それぞれのエピソードで
個性を引き出し、男達のドラマに密度が生まれる。
ハワード・フォークスはハリウッドで
”職人監督”と呼ばれたのは
マリリン・モンローの「紳士は金髪がお好き」等
なんでも屋で芸術肌の作風で無かったからと。
しかし、此の作品で観る限り、俳優への的確な演出に
画面作りの完成度、無駄の無い編集は、文句の付け様が無い。
”クロサワ”が憧れた、あのジョン・フォードと並ぶ
米国屈指の大監督だろう。
改めて観たモノクロ西部劇は、より魅力に満ちていて
映画の温故知新の想いを強くした。
また映画音楽マニアなら、ディミトリ・ティオムキン作曲の
「リオ・ブラボー」の主題歌「ライフルと愛馬」が
此れで初めて使われて居るのに気付くだろう。
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