剣客商売 第4作 陽炎の男
藤田まことが亡くなって、秋山小兵衛役が
北大路欣也に受け継がれた此のシリーズ。
年に1本というペースで2012年から
丁寧に作られていたのを私は知らなかった。
監督が、あの「関の弥太っぺ」の
山下耕作の息子の山下智彦。
脚本に金子成人とスタッフも一新していた。
金子は久世光彦ドラマの脚本を向田邦子から
引き継いだ人だが
その久世が気に入っていた役者・柄本明を
「鬼平犯科帳・正月四日の客」に続いて起用している。
それが此の池波正太郎・原作の他愛無い
娯楽時代劇を深い人間ドラマに変えた。
勿論、主役の北大路や杏の立ち回りの見せ場は
作ってあったが
最期に北大路に説得されて江戸の影の黒幕
テキ屋の元締めから足を洗い一介の竹細工職人に
成った柄本の何とも云えない渋さは
前半、鬼の様な形相で娘の恨みを晴らそうとする
父親との対比が効いて
柄本明の役者としての成長を感じた。
そう以前、”鬼平”の財津一郎の芝居の事を
書いた事があったが、
アチャラからシリアスのドラマへ
ジャンプする演技の幅を持っている役者は少ない。
志村けんとドリフの年増芸者コント
故・中村勘三郎との舞台コンビ等
下北沢スズナリ劇場を湧かした柄本明の
ドタバタ芝居のボケ加減は絶品。
此れだけデキるコメディアンは、もう
日本に数える程しか居ないだろう。
隠居した辰蔵の家に訪ねて来た秋山小兵衛に
”一体、此れから何を生き甲斐に
自分は生きれば良いのか?”と虚ろな表情で問い
酒を酌み交わす終焉の此の場面は
高齢化社会の現代にも繋がる普遍的な主題。
いや彼が、かって演じた不条理演劇
「ゴドーを待ちながら」の一場面を思い起こさせる。
練られたセリフと、丁寧な演出に
今、ノリにノッている俳優・柄本明が
本気の力を出している。
そうなると相手の役者(北大路欣也)も反射して
今まで見た事も無い良い芝居で答える。
「鬼平犯科帳・正月四日の客」の松平健もそうだった。
それが演技の面白さ、演出家の醍醐味でもある。
名優にして怪優・三国連太郎を超えるのは
案外、柄本明かも知れない。
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