2014年12月2日火曜日

財津一郎(1934〜)
まだ夜空の星になっていないが、何処か野原の片隅に
”地上の星”として光を放っている人も居る。
私にとって彼は、その一人だ。
その昔は藤田まことの「てなもんや三度笠」で
”非情にキビシ〜”や”・・・してちょうだい!”の
ギャグで舞台を一瞬にしてさらう芸で売ったコメディアン。
吉本喜劇から離れた後も時代劇、現代劇を問わず
クセのある演技で印象を残す脇役として
映画にTVドラマに活躍した。
同じ喜劇畑出身の俳優に伊東四朗が居るが
てんぷくトリオから生き残り、今や超売れっ子の名傍役だ。
彼らの舞台で、生の笑いをとる下積み修業が、
今の演技に深みを出しているのだろう。

とにかく並みの俳優とは違う財津の演技は
シリアスなのにギャグになってしまう面白さ
いや、ギャグをシリアスな演技に取り込む怪演にある。
上の写真は「鬼平」の「妙義の団右衛門」
殺人を厭わない”急ぎ働き”をする極悪人だが
無類の女好きという設定に、彼が、いきなり指を
自分のナニの様に舐めたりする奇妙な演技が
マンネリ化したの此のシリーズに活を入れ
不思議な魅力のある佳作を生んだ。

此の直後だろうか?彼は61歳で脳内出血に倒れ
左半身に軽い麻痺を残したらしい。
彼の演技(ギャグ)は肉体を使う事が多いので
そのリハビリは、恐らく必死だったろう。
その俳優復帰への彼の執念に感動する。
此の「鬼平」でも観られる盗賊の眼光の鋭さに
「清左衛門残日録」での優しい眼差しは、役者として
彼の長いキャリアの幅だ。
彼しか出来ない”凄技”を持っていながら
何もせず、静かに的確な人間像を浮かび上がらせた
晩年の存在感は、彼が到達した芸の境地を感じさせる。
此れ程の実績と才能がありながら
伊丹十三の「お葬式」での日本アカデミー助演男優賞だけ
という世間での評価に、私は納得がいかない。
だいぶ古い彼の出ている”中古ピアノ引き取りCM”が
流れる度、とても悲しくなる。
此んな希代の名優が、最近の映画やTVで
観られないのが  ”非情に寂し〜い!”
前回の”星屑たちの記憶”の長門裕之と同い年で現在80歳
体調を崩していなければ良いが・・・。

此れは余談だが、その昔
私はセイコーの時計のCMに彼に起用して
メロドラマ風の設定で鹿児島ロケをする筈だったが
彼は熊本出身なのに飛行機が怖いと
なんとか電車を乗り継いで現場に入るという。
結局それではスケジュールが足りないので
新宿西口を、桜島の見える高台に見たてて撮影した。
その頃、既にミュージカル等で活躍していた彼は
スタイルが良く「カサブランカ」のボギーの様な
トレンチコートがよく似合ったが
ボギーはトレンチのベルトを通さず、縛っていたという私の
リクエストに几帳面な彼は納得がいかなかったらしく
私が目を離すと直ぐ直してしまうのには参ったが
今は懐かしい想い出だ。
因に、そのCMはカンヌのCMフェティバルで賞を取った。

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