モーリス・ロネ(1927〜1983)
此のフランスの男優を知っている人は可成りの映画マニア。
フランスの映画運動ヌーベル・ヴァーグに活躍した二枚目。
運命とは不思議なもので、当初「太陽がいっぱい」の
主人公リプリーの役は彼であったそうな
しかし監督ルネ・クレマンの閃きで直前に
新人のアラン・ドロンと入れ替わり
彼はドロンに殺される金持ちの御曹司フィリップ役に。
それまでフランス映画のトップだった彼は、
此の作品の世界的なヒットで
まるで「太陽がいっぱい」の筋書きと同様
ドロンに、その座を奪われてしまったと云う皮肉。
それでも甘いドロンとは違う、彼の繊細で鋭角的な演技が
フランス映画黄金時代の名監督たちに愛され
上のジャケットに載せた様な名作に数多く出演している。
まずはルイ・マルの「死刑台のエレベーター」では
不倫相手の夫で会社社長を、完全犯罪を企み殺害したもの
その会社のエレベーターに一晩中閉じ込められるという
不運な役を大女優ジャンヌ・モロー相手に演じ切った。
同じ美男ながら、ドロンと比較すれば
”陰”のあるエキセントリックな表情が得意な彼は
同じルイ・マル監督の「鬼火」で
自殺願望の青年役でエリック・サティの音楽をバックに
パリの町を一晩中彷徨っている。
何れもモノクロ画面に彼の孤独な目が印象的だ。
そう云えば名匠マルセル・カルネの晩年の傑作
「マンハッタンの哀愁」もモノクロ映像。
米国N.Y.ロケでフランス人の中年男女の出会いと別れを
マル・ウォルドロンのピアノで切なく描いた。
私の記憶にあるフランス映画はモノクロ映像にモダン・ジャズ
そしてクラシック音楽が多い。
他にも、外交官でもあった作家ロマン・ガリーが
自ら脚本監督した「ペルーの鳥」など
フランス映画らしいエスプリに溢れた世界には
彼の知的な存在感が不可欠であった。
先のアラン・ドロンとは仲が悪かった訳ではなく後年
アクション映画「チェイサー」で再び競演したが
怪優クラウス・キンスキーまで絡んで
彼等が醸し出す雰囲気は、往年のフランス映画を
知っている監督ジョルジュ・ロートネルらしくて
とても面白かった。
気が付けば彼は55歳で、癌で亡くなっている。
彼の持っていた”陰”の表情=アンニュイさは
命の空しさ儚さを知っていた故と、私には思える。
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