ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(2011)
人がゆっくり空を飛んでいる?
いや、逆さだから落ちているのだと気付く
そんな不思議な映像で始まる此の映画は
同時多発テロで父親(トム・ハンクス)を失った子供の深い傷と
その立ち直りを描いた物語。
変わった題名の由来は今ひとつ解らないが
とにかく、その重いテーマの原作が緻密なシナリオと
贅沢なキャスティングにより、見応えのある作品に仕上がった。
主人公は11歳のアスペルガー症候群の少年(トーマス・ホーン)
此の子役、全米オーディションの膨大な数から
選ばれただけに演技が滅茶苦茶巧い!
そして監督がデビュー作「リトル・ダンサー」で
脚光を浴びた英国の舞台演出家スティーブン・ダルトリー
その映画の子役の使い方は勿論巧いが
大人の俳優の演技を引き出すのも達人だ。
「めぐりあう時間たち」でニコール・キッドマン
「愛を読むひと」でケイト・ウィンスレッドに
アカデミー主演女優賞をもたらしている。
ところで少年の病名”アスペルガー症候群”とは
私は始めて聞く名前だが自閉症の1つらしい。
それでも知的障害は無く、逆に記憶力は素晴らしいらしい。
テロで死ぬ前、父親は何とか息子を治そうと
”幻のニューヨーク6区探し”と云うゲームを彼と始める。
それは人とコミニュケーションを
とらなくてはいけないゲームなので
彼の自閉症の治療に成ると考えたからだ
しかし父親は偶然9,11に世界貿易センタービルに居たので
彼に留守番電話で最後のメッセージを残し死んでしまう。
そのショックから立ち直れない少年は
父親の部屋に在った青い花瓶に入っていた鍵に
何か意味があると、その鍵の封筒の”ブラック”という
文字をヒントに何の鍵なのか?探し始める。
それは父親としていたゲームの続きの様なもので
電話帳からN.Y.全部のブラックという人に会う事だった。
母親(サンドラ・ブロック)には秘密なので
親子の関係もギクシャクしながら探索は進む。
途中で向かいのビルに住む祖母の間借人と知り合い
その老人も一緒に一軒づつ回る事になる。
此の間借人を演じるのがスウェーデンのベルイマン映画
「野いちご」で、お馴染みの名優マックス・フォンシドー
云っては悪いが、まだ生きていたのかと思う程
日本の笠智衆と同じで、若い時から老人役をしていたから
意外に、まだ85歳(その渋い演技が映画に厚みを出した)
彼も過去に心に深い傷を負い、言語障害で少年とのやりとりは
すべて、いちいちメモに書く筆談。
しかし何故か2人は心が触れ合い、老人と少年の
奇妙なコンビで”ブラック”という名前の人をN.Y.中捜し回る。
訪ねた相手は何故か皆とても優しく
(此れは後で映画の”オチ”に成っているのだが・・・)
いつの間にか2人の傷ついた心を癒して行く。
此のシナリオの構造、何かに似ていると思ったら
ロバート・レッドフォードの「モンタナの風に吹かれて」の
脚本家エリック・ロスのものだった。
その時も書いたが、最近”癒し”と云う言葉を
軽薄なタレントやレポーターが簡単に使うが
それは本当に病んでいる人に使われるべきもので
旅行番組で”癒される〜”というのは、
只の”気持ちイイ〜”なのだ、安易に使われると気持ち悪い。
それはともかく
此の映画に描かれた9.11同時多発テロの被害者
そして又、東日本大震災にあわれた方々は
本当に癒される日など来ないかも知れないが
でも何時か、その日が来る事を願わずに居られない。
此の映画のエンディングはハッピーエンドでは無いが
それぞれが探していた愛を身近な処に見つけ
静かに終わるのが救われる。
要所要所でジョン・グッドマンや
ジェフリー・ライトと云った名傍役の好演も光っていた。
見終わってから気付いたのは
冒頭の映像は破戒された世界貿易センタービルから
投げ出された人間の姿。
そして、もう一つ気付いたのは
此の映画を観たのが偶然9月11日だった事。
少し前、BSでやっていたのを
内容も解らず録って置いた私に
その落ちて行く人間が、私を忘れるなと
呼んだ様な・・・。
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