フロム・ヘル (2001)
現在、観客動員数トップの人気俳優ジョニー・デップ。
私は彼の”如何わしい”目つきが嫌いで此のサイトにも
彼の出た映画を登場させた事は無いはずだ。
ティム・バートンとの「シザー・ハンズ」以来
ピエロの様に誇張した彼の演技も鼻に付き
私は、どうしても感情移入出来ないのだ。
しかし此の映画は、その彼の“如何わしさ”と”陰の部分”が生きた。
此れはアラン・ムーア原作とエディ・キャンベル作画の
グラフィック・ノベル、つまりアメリカの劇画本の映画化。
それをアルバートとアレンのヒューズ双子兄弟が演出したアメリカ映画。
劇画はモノクロだが、映画は全編英国調の渋いトーンで描かれ
劇画の様に大胆なカメラ・ワークは絵画の様に美しく
巧みな編集は観客の恐怖感を煽る。
そう此の映画、あの有名な”切り裂きジャック”の話なのだ。
それを追う警部をジョニー・デップが演じる。
妻子を無くし、生きる目的を見失ってアヘン中毒に
成っているという設定。
イギリスにはシャーロック・ホームズという
同じアヘン中毒の探偵がいるが
此の映画で警部は、その”アヘンの力”で
事件の予知能力が有るという事になっている。
切り裂きジャックの”先”が読めるのだ。
しかし、ジャックの娼婦殺しは全く止められない。
此れから先はネタバレ注意!
でも実は”切り裂きジャック”は
英国王室の不祥事をカモフラージュする為のでっち上げで
英国の裏組織フリーメーソンが、此の事件を操っていたというワケ。
現代も英国に存在するという此の裏組織は奇々怪々で
マフィアやヤクザより恐ろしいと云われている。
此のフリーメーソンの秘密の儀式はキューブリックの遺作
「アイズ・ワイズ・シャット”にも登場したが
中世の悪魔払いの様に不気味だ。
彼らはイギリス階級制度の頂点に位置しているから
一般の人々は太刀打ちできない陰の権力を持っている。
それをイアン・ホルムやイアン・リチャードソンと云った
英国シェークスピア劇の名優が演じているから真実性は充分。
それと記憶に残ったのは警部を補佐する部下の巨漢の刑事役
ロビー・コルトレーン(ハリー・ポッターのハグリット役でお馴染み)
彼の人間味あふれる演技は劇画では描ききれない部分だ。
そして殺される娼婦たちも、それぞれ個性の有る女優を集め
その哀れさを引き立てている。
まずキャスティングと脚本の良さに
ヒューズ双子兄弟の演出力が光る。
しかしフィクションとは云え、英国王室を此処まで
酷く描いて大丈夫なのだろうか?
英国王子は娼婦好きで梅毒、おまけに
身分を隠して、その中の娼婦と結婚し、子供まで作ってしまう
という大胆な筋書き。
それを隠す為に”フリーメーソン”が動くというのだ。
もし日本の王室なら、此んな映画を作ったら
とんでもない大騒ぎになると思うが・・・。
映画はハッピーエンドに成るか?と云うところで
観客の期待を見事に裏切る。
そんな結末も怪優ジョニー・デップならでは。
「エルム街の悪夢」でデビューした彼は
何故か血腥(なまぐさ)い作品が多い。
「スリーピー・ホロウ」「スウィニー・トッド」「パブリック・エナミーズ」
と血にまみれた場面ばかりだ。いつか
”ブラッディ・ジョニー”というカクテルが出来そうだ。
彼は従来のハリウッド・スターの枠を超え
どんどん危なくなって、面白い役者に成りつつある。
出演作品は娯楽映画、芸術映画を選ばず
上手に映画界を渡り歩いている様に見える。
ダーク・ボガード、ドラルド・サザーランド、三国連太郎の様に。
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