旅情:デヴィッド・リーン
映画史上の名作であるこの作品は
「戦場にかける橋」「アラビアのロレンス」の
イギリスの名匠デヴァッド・リーンには珍しい恋愛映画でもある。
まず、訪れた人なら解る鉄道でのベニスへの導入部に
ヒロインの気持ちと同様ワクワクさせられる。
そう米国の地方都市で秘書をしている女性の
始めての海外旅行なのだから無理も無い。
演じるキャサリン・ヘップバーンは同じヘップバーンでも
「ローマの休日」のオードリーとは見た目が、だいぶ違うし
年齢も、かなりいっているオールド・ミスだ。
それでもベニスという地にロマンスを期待し、
サンマルコ広場の鳩の様に飛び立とうとするが
知性が邪魔をして、それが出来ない。
此れの相手の中年男が伊達男ロッサノ・ブラッツィ。
イタリア男性らしい甘い容貌に優しい言葉は彼女を夢中にさせる。
しかし彼はなんと別居中の妻が居た。
たじろぐキャサリンに、そんな事はどうでも良いと口説く男
どうやらブロードウェイの舞台の映画化らしいので、
監督のデビット・リーン自ら参加したという台詞(セリフ)が巧い!
「奥さんがいるのにワタシ理解出来ない!」
「理解出来ないものが美しいのだよ」と
いわゆるイタリア男の”言葉攻め”に溶ける年増女のいじらしさ。
恋をして、どんどん美しく成るキャサリンを捉えた
カメラ(撮影ジャック・ヒルドヤード)が見事だ。
勿論、水の都ベニスの光と影も朝昼夜と溜息が出るほど美しいが
背景だけでなく、その地に住む人々や観光客を
さりげなく捉えたスナップ・ショットはカラーだが
”ブラッサイのパリ”の写真集に劣らない。
どれだけ時間と予算をかけて撮られたのだろう。
後に硬派な大作映画ばかりになるデヴィッド・リーンには意外な
小憎らしい土産物売りの子供がらみのユーモアや
洒落た小道具(ハイヒール、くちなしの花)の使い方など
改めて観ると緻密に計算された演出が光る。
しかし何より此の映画が素晴らしいのは若い男女ではなくて
それぞれ人生のピークを過ぎた大人のカップルの恋愛である事だろう。
たとえ、それがハッピーエンドに終わらなくとも感動を生む。
原題は“Summer Time"
ヒロインの心を季節の夏に例えたのだろうか?
主題曲「サマータイム・オブ・ベニス」がアレンジを変えてリフレイン。
若いときに観た時の私と、今とではかなり感じ方が違う。
映画の面白さは時間を経て又楽しめると云う事をつくづく感じた。
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