2024年10月2日水曜日

「無宿」(1974):斉藤耕一監督作品
「健さん」(2016)というドキュメンタリーが作られれ
高倉健が如何に魅力的な俳優であったかを
「ブラックレイン」で共演したマイケル・ダグラスや
「ザ・ヤクザ」の脚本ポール・シュレイダーが語って
それに高倉健の格好いいスチール写真がこれでもか!と
出てくる。
しかし此の映画「無宿」には敵うまい。
大映から独立し勝プロを起こした勝新太郎が
自分にない高倉健の魅力に惚れた企画だ。
それもロベール・アンリコ監督の「冒険者たち」への
オマージュを込めて。
そう健さんをアラン・ドロン、自分はリノ・バンチュラと
いう設定で脚本を「津軽じょんがら節」の中島丈博に書かせて。
無理のない設定はプロデュースした勝新を始めとして
スタッフ全員が”高倉健”に惚れていたから。
特に監督・斉藤耕一はスティール・カメラマン上がり
健さんの魅力は誰よりも分かっている。
どのカット、どのシーンでも宮川一夫ばりのレンズの選び方
ベスト・アングル、ベスト・ライティング。
「冒険者たち」の”レティシア”役の梶芽衣子も
ほぼノーメイクで美しい女盛り。
日本映画だから彼女を巡って男二人が奪い合うなんて
野暮な事はしない・・・いや勝新が遠慮してる。
それでも男二人が自分の事を見向きもしない程仲良いのに
嫉妬して梶芽衣子が裸で海へ飛び込むなんて場面もある。
そう、此の映画、海への憧れの作品でもある。
勝新は”津軽じょんがら”の海を観て監督を選んだのかもしれない。
それくらい海の魅力も存分に出てくる。
勝新は海が好きだったらしくTV座頭市物語で自らのメガフォンで
原田美枝子を盲目の少女にして此の海岸を撮っている。
私は、これを何度も観てるはずだが
ラストが、あっけなく終わるのをいつも忘れる。
だから、クライマックスに二人が大暴れしないから
当然、此の映画はヒットしなかった。
(途中、安藤昇と高倉健の殺し合いを丁寧に撮っているのに)
でも、それが今観るとフランス映画フィルムノワールみたいで良い。
青山八郎の音楽も出過ぎず心に余韻が残る。
映画の終わり、二人が宝探しに使った小舟を
「冒険者たち」の要塞島みたいにしているのも好きだな。
<追記>
以前にも私は書いた気がするが
高倉健は美空ひばりの現代劇の相手役として
売り出された二枚目俳優。確か二本建て興行用の第二東映から。
マキノ雅弘が鶴田浩二主演の「飛車角」で起用したときは、
まるで刀をバットのように使い、マキノを呆れさせた。
それをマキノは正に手取り足取り、
目線の決まりまで教えて”高倉健”を作った。
”不器用のもので・・・”は健さんの上等文句だが、
彼は彼なりに自分のスタイルを決め、それを実行して
小津安二郎に仕込まれた笠智衆の様に演じて成功した。
勝新太郎は逆で、絶えず新しい自分を求め
白塗りの二枚目を卒業して座頭市になった。
此の映画「無宿」では、健さんを生かすため、
敢えて軽く振る舞い、彼の新境地を見せている。
それがとても素晴らしい。

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