「男はつらいよ・純情編」(第6話)
此の作品はシリーズの中でも傑作との呼び名が高い。
まず渥美清が憧れていた森繁久弥との競演が映画の冒頭にある。
伏線として夫に愛想を尽かした妻(宮本信子)が
子供を連れて故郷に帰るのを寅次郎が送ってきて、その父親(森繁久弥)と出会う。
父親は娘に帰れと。”帰るところがあると思うから我慢ができないんだ”
”お前が駆け落ちしてでも一緒になった男なら
何処か良いところがあるんだろう”と諭す。
これを聞いた寅次郎は”そうだ!帰るところがあると思うから
我慢ができないんだ”
と納得するも結局柴又が恋しくて帰る。
此処で森繁は極力抑えた演技をしている。まるで志村喬の様だ。
そして戻った柴又で、やはり夫から逃げてきた人妻(若尾文子)に
会ったら、おいちゃんも、おばちゃんも寅が恋をしてしまうのが
分かっているから早く帰そうとするのに、
寅は怒り”俺はもう此処には戻らねえよ”と出て行こうとする処で
若尾文子に会い、そのまま居座る。
それからは此のYouTubeに概ね出ている通り、
町医者・松村達夫との絡みが腹が捩れるほど笑わせる。
(此のすけべ医者役を森繁がやったら、又違う面白さが出たろう)
おいちゃんの森川信が亡くなり代わりに松村達夫が起用されたが
松村の持つ”インテリ臭さ”が下町の団子屋の親父には向かなくて
早めに下元勉に交代した。
俳優にはそう演技では出ない”らしさ”というやつが有るのだ。
それと此の作品には珍しく寅というキャラクターのイイ加減な部分が出てくる。
タコ社長から独立したいヒロシと双方から説得を頼まれた寅は
どちらの言い分も分かり、何とも曖昧な役割しかできない。
此のシリアスな脚本はシリーズの中でも浮いている様に思える。
ラストに宮本信子が柴又に現れ、とらや屋から故郷の父親への電話で
再び森繁久弥が登場するが、
此の場面でも監督・山田洋次は彼の背中だけ、
そして名優・森繁久弥クローズアップで終わる。
此の作品、私が大好きなのは”笑い”と”涙”の均衡が
実に良く取れているからなのだ。
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