2021年1月17日日曜日

 

「人生劇場・吉良常と飛車角」内田吐夢監督(1968)

先の沢島忠監督3作で飛車角を演じた鶴田浩二は此の時40歳。

前作ではアイラインを強調した二枚目メイクだったが

此処では監督内田吐夢の意向か、素顔に近い渋い中年男に。

そりゃそうでしょ40歳のヤクザがメイクしてちゃ可笑しい。

その間にヤクザ映画の傑作と言われる

「明治侠客伝・三代目襲名」「博奕打ち・総長賭博」に

主演して、あの三島由紀夫を夢中にさせていたのだから。

それは競演の高倉健も同じ

美空ひばりの相手役のニヤけたハンサム男から

先の沢島忠作品で掴んだ”宮川”のキャラクター

「日本侠客伝」「昭和残侠伝」と

滅多に笑わない寡黙な男、それを、彼は死ぬまで演じた。

・・・と前置きが長いが本題の内田吐夢監督の「人生劇場」に入ろう。


前作から5年が経ち、東映のオールスター出演作品に呼ばれた

内田吐夢は戦前戦後の日本映画の名作を作った巨匠。

「血槍富士」「たそがれ酒場」「浪花の恋の物語」

「宮本武蔵シリーズ」と枚挙に意図がない。

尾崎士郎の原作の長い展開をバッサリ整理した。

例えば宮川と、おとよの出会いなど省略し、

飛車角との対決をスムーズに運んでいる。

おとよは佐久間良子に代わり藤純子が演じた。

彼女は父親が此の映画のプロデューサー俊藤浩滋。

「緋牡丹博徒」シリーズがヒットしている最中であった。

飛車角と宮川と間で揺れ動く女心を監督・内田は

ぜんぶ彼女に演じさせるには無理があると思い

左幸子という女優を、おとよの近くに付け加えた。

思えば、この前に「飢餓海峡」で左幸子をヒロインにしている。

これにより東京から吉良の港への登場人物たちの集結が上手く運び、

♪吉良仁吉は男でござる〜の吉良の舞台は

そのまま吉良常の最期を遺憾なく盛り上げる。

また新国劇から迎えた辰巳柳太郎の吉良常役は

月形龍之介とは違う人懐こさがあり

青也飄吉を”若旦那”と可愛がるのが”無法松”のようでハマり役。

吉良常は死に際に先代譲りの拳銃で庭の銀杏の木を撃ち

花火のようだと言いつつ息を引き取り

それを聞いてから、飛車角が宮川の仇討ちに敵地に乗り込む

道すがら、おとよに”行かないで!”と縋り付かれる。

そう人生劇場は女には解らぬ”義理と人情の男の世界”なのだ。


此れを当時、武蔵美の学生だった私は映像の授業で

脚本家の石堂淑朗先生から

”今の時代状況はヤクザ映画が一番良く表現してる!”と。

でも、その授業、最初は20人ぐらい受講生がいた筈なのに

エイゼンシュテインやイタリアン・ネオリアリズもの映像論に

みな退屈して一人減り二人減り、教室は私だけになっていた。

私がヤクザ映画に血が騒ぐのは、その影響なのだ。


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