2017年3月11日土曜日

「待って居た男」(1942)
フランス映画の古典的名作「天井桟敷の人々」は
ナチに占領されたパリの撮影所で製作されたらしいが
此の日本映画の古典的名画も年代的に太平洋戦争末期だ。
物資の乏しい時代に映画の冒頭から見渡す限りの
宿場町の巨大なオープンセット。
時代が時代だから当然、特殊合成は無し。
画面の端から端までエキストラたちが
ちゃんと演技をしていて、その数が半端でない。
南方の島々で日本軍が敗退しているとき
国内で、こんな大作が撮れたのが、不思議でならない。
当時、”正博”を名乗って居た監督・マキノ”雅弘”の
著書「映画渡世、天の巻・地の巻」によれば
都心の戦時・食糧難に、地方には食料が豊富と聞いた
マキノは地方ロケ、富士山と木造の大橋も入れている。
更に物語の主な舞台の大きな旅籠セットは贅沢に2階建て
それをフルに引いたロング・ショットのドタバタが圧巻だ。
「映画は1に本(脚本)、2にヌケ(映像)、3に役者」と
言い切るマキノは、此のシナリオに敵国の探偵小説家
ダシル・ハメットの”影なき男”シリーズを持ってきた。
原作の夫婦探偵を、江戸の目明し夫婦の湯治旅にして
すかり息抜きをしている亭主の代わりに女房が
張り切って犯人探しをするという設定。
此の夫婦に、まだ若い長谷川一夫と山田五十鈴。
此の二人、プロローグが長くて中々登場せず
観る方に気を持たせるが、それでも
娘役時代の高峰秀子や山根寿子に
沢村貞子、藤原釜足、進藤英太郎など
日本映画黄金時代の名優たちの芝居に見とれてしまう。
話は旅籠の女将が、何者かに命を狙われ
山田五十鈴が犯人と目星を付けた男は
あっけなく殺されてしまう。
途中エノケン扮する地元の目明しが絡んでくるが
馬鹿で全くラチがあかない。それで
まだ”銭形平次”になる前の長谷川一夫が名推理で
事件を解決するという訳。
時代劇なのに、原作が”洋モノ”だから
登場人物を全員、広間に集めて事件を解決するというのが
”アガサ・クリスティの名探偵ポアロ”みたいで面白い。
しかし絡むエノケンこと榎本健一のギャグは
さすがに古くて、チッとも笑えないどころか、クドイ。
しかしマキノ演出は長谷川一夫と山田五十鈴の
夫婦のやりとりを現代劇の様にモダンに描き
娘役の高峰秀子の可愛さや、キャスト全員の肉付けが見事で
改めて戦前戦後と日本映画を牽引してきた
此の大監督の凄い才能を見直した次第。

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