コックファイター (1974)
ウォーレン・オーツ主演の此の映画は
何故か?40年も”お蔵”になっていた。
それは、ファイターとタイトルは付いているものの
アクションも無ければカーチェイスも無い
”闘鶏”という地味な題材を扱った映画だからだ。
しかし此れが、実に面白い!
相手が死ぬまで戦うのを止めない鶏は
ローマの剣闘士と同じ。
その勝負は賭け事にされるが
争いの激しさと残酷さに、人は魅せられる。
スローモーションで撮られた、その場面は
”若冲”の絵の様に鮮やかだ。
群鶏図 若冲
「ワイルド・バンチ」「さすらいのカウボーイ」
そして「ガルシアの首」と
時代に乗り遅れたカウボーイの末路を演じて来た
俳優ウォーレン・オーツに、シナリオは丸で
彼への”アテ書き”の様に見事に作られ
先の、どの役よりも自然に演じている。
俳優と云えば競演のハリー・ディーン・スタントン。
彼もウォーレンと同じで悪役と脇役ばかりだったが
「パリ・テキサス」でヴィム・ヴェンダースに抜擢された。
彼もウォーレンと同じ”時代遅れの男”役がハマる。
それと他にキャスティングで面白いのは
「恋愛専科」の金髪青年スター、トロイ・ドナヒューに
「アンネの日記」のミリー・パーキンスまで
チョイ役ながら登場して
あの青春スター達の ”その後”が
アメリカ映画として奥行きを与えている。
そして少し煩(うるさ)い映画マニアなら
此の映画、カメラ・フレームと光の陰影が
普通でないのを気付くだろう。
なんとカメラマンに、フランスはトリフォー作品でお馴染み
ネストール・アルメンドロスを起用しているのだ。
岸辺のラブシーンなど大胆な画面構成がハッとする程美しい。
此れは名作「天国の日々」(1978) の4年も前の事だ!
更に音楽は後にAORの「アントニオに捧げる歌」で
でブレークするマイケル・フランクスなのだ!
此の映画ではカントリー音楽の楽器がメインの
地味な構成だが、それでも彼の洒落たセンスが窺える。
此れだけの”贅沢な食材”を揃えて
監督モンテ・ヘルマンの料理が実に丁寧。
描いたものは、男と女の心のスレ違い。
愛し合っていても男が夢中に成る世界を
女はどうしても理解出来ない。
所詮、男と女は違う生き物なのだ・・・と。
当時、フランスでは”ヌーベル・ヴァーグ運動”が起こり
イタリアではアントニオーニの”愛の不毛”3部作が発表され
アメリカはベトナム戦争の泥沼から抜け出せない時代背景に
所謂ハッピーエンドに成らない辛口で現実的な
”アメリカン・ニュー・シネマ”という作風の映画が登場した。
此の映画は、そんな時代の空気を反映した
哀しいほど間抜けで、無骨な男の世界を描いたロード・ムービー。
何故、此んな作品が今まで世に出なかったのか
不思議で成らないが
確実に、そのジャンルのベスト・テンに
入れたい作品だ、それも上位に!
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