カンパニー・メン(2010)
日本の男たちは所謂”会社人間“が多く
定年=仕事を終わるか
解雇される=仕事を失うと
どうして良いか解らなく成ると云う。
此の映画の題名を直訳すれば「会社の男たち」である。
米国の会社員たちが、リーマン・ショックで
リストラされる処から此の映画は始まる。
まったく重い話である。
上の写真に並んだ大スター達が、その役を演じる。
何れもハリウッド映画の花形たち、おそらく此んな平凡な
サラリーマン役は今迄やってなかったはずだ。
それが、此の、どうしようもない暗い物語が
上級なエンターテイメントに仕上がったポイントだ。
まず主役は写真中央のベン・アフレック。
彼の設定は中学生くらいの娘と息子を持ち
夫婦仲も上手く行っている順風漫帆の営業部長。
我々日本人からみたら夢の様な文化住宅に住み
買ったばかりのポルシェに乗って格好良く
出社すると、待っていたのは解雇通知
彼には何の落ち度も無いはずだが
会社の合併で人員整理されたのだ。
それを言い渡した上役は、写真の右はじにいる
人相の悪いクリス・クーパー。
此の役者は「モンタナの風に吹かれて」や
マット・デーモンの「ボーン・シリーズ」で
重要な役をしていた名傍役。
その彼もナントその後、すぐ解雇されてしまう。
しかし彼の場合、年齢が60近くなので
次の仕事も見つからず、本当に困ってしまう。
その彼を最後まで庇(かば)う、会社の創立メンバーで
副社長でもある重役を、某缶コーヒーCMの
”宇宙人ジョーンズ”ことトミー・リー・ジョーンズが演じる。
「この星の会社員は仕事を取られると・・・」と
言い出しそうで笑えるが、
実に人間らしいキャラクターを演じて、此の映画の核となっている。
・・・と、まあ縦社会そのままの3人を
追う事により現代の米国社会の構造が浮き上がる。
しかも重役のトミー・・・まで
社長に歯向かったので首に成るのだ。
若いベン・アフレックは再就職を甘く見ていて
これまでの豊かな生活を変えようとしないが
その就職先は、なかなか見つからず、
ついに妻はパートで働き出し
ローンで買った高級な家や車を手放すハメに。
結局は親の実家に家族全員やっかいになる。
それを見かねた義兄で大工をしているケビン・コスナーの
誘いを受け、しぶしぶ、その手伝いを始める。
ホワイト・カラーがブルー・カラーへの転身だ。
彼をコキ使う粗野な義兄役を
何で、あのケビン・コスナーが?と思う程、憎たらしく演じ
体重まで増やしてロバート・デ・ニーロばりに演技を楽しんでいる。
それは役者の余裕というべきか?
最後の最後で良い処を持って行く役なのだが・・・。
それにしても巧い脚本だ。
それはそのはず脚本家として成功していたジョン・ウェルズが
満を持しての初監督作品なのだから。
とにかく今の日本の状況にもウジャウジャ有るような
リストラされた人々と、又その家族の悲哀を
実に丁寧に積み重ね描いている。
途中、何とも、やるせない気持ちにさせられるが、それでも
演じているのが名優達だから、素直に感情移入出来るのだ。
追いつめられたクリス・クーパーは
アル中になり、夜中に勤めていた会社に行き,石を投げ
自分が大きくした会社だと泣く。
その老いた姿が哀れだ。
結局、自ら命を絶った
その彼の葬式で出会ったベン・アフレックを
昔の上司トミー・リー・ジョーンズは
今は閉鎖された昔の工場へ連れて行き、
「本当の人生を何処かで自分は見誤ってしまった」と話す。
此の時の彼の表情が何とも良い。それは
人生の辛酸を舐めた男の本当の辛さだ。
彼の顔の皺が如く、此れ迄のキャリアを生かして演じている。
殆どシルエットの背中で全てを感じさせているのだ。
つくづく凄い俳優だと思う。
俳優と云えば、ベン・アフレックは子役上がり
しかし日本で、大人になるとダメになる子役と違い
同じ俳優のマット・デーモンと共同で
「グッド・ウィル・ハンティング」という名作の脚本を書き上げた男である。
更に最近では「アルゴ」(2009)というイランの
アメリカ大使館人質事件をテーマに監督・主演して
アカデミー作品賞まで取っている。
此の作品でも、何度受けても落ちる再就職の面接に
遠くは慣れたシカゴまで出向き、
相手に日付を間違えたと云われた時の彼の失望が痛いほど伝わる。
それは彼の誠実なキャラクターそのままなのだろう。
とにかくハリウッドという魔界に居ながら超真面目な俳優
いや,監督いや、人間なのだ。
たとえば、此んな重い人物像を
先の俳優たちが演じていないとしたらどうだろう?
おそらく誰も映画館に足を運ぶ気はしない。
それが此の映画の素晴らしさだ。
大スター達が極く当たり前な現代アメリカの悲劇をリアルに演じ
観客を心配させ,そしてラストには
希望を持たせるエンディングを用意した処に
此の不況時代に此れを製作した監督ジョン・ウエルズの意義を感じた。
「負けるな、自信を持て、これからだ本当の人生は!」と。
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